2011年11月10日 のアーカイブ

武田肇第五句集『二つの封印の書 二重フーガのための』2011年 銅林社

2011年11月10日 木曜日

この一書は表紙にアーデルハイトの封印』とあり裏表紙には『エーリスの封印』とある。そうして奥付には『二つの封印の書 二重フーガのための』とある。詩人武田氏が編む句集はただ一句一句をは積み重ねていくのではなく、意識的に編み、意識的に積み重ねた句集ということだ。一年間の作品を四つのムーブベント–「冬至祭」「アリスの相圖」「秋深し」「異言」–に分けている。とは言っても、読む側にその素養がないので、一句一句を独立して読むことになる。

木の股に冬至の音を聴いてをり  
ねえさんと呼んでみたきは初氷
夕焼や一高櫓に一看守
噴水の乾かばにほひ暮の秋
秋止めて塀のあつまる町目界

有住洋子著『閾』  2011年 文芸社刊

2011年11月10日 木曜日

 一見エッセイのようだが、これはあきらかに詩集である。一章ごとのタイトルも全て漢字一文字「界・翳・条・像・皮・片・残・綾・層・経・緯・覚」となり、すでに抽象的な匂いがしてくる。一章目は「界」は子守歌が聞こえてきてそこから思い出す風景を綴ってゆく。そこから立ち上がる映像はあくまで確とは輪郭を現実には引き寄せない。言ってみれば夢の出来事を後追いで再現しているのである。この傾向は最後まで及んで、不思議な陰影を作りだしている。

 タイトルの一つ「緯」は「い」と読むのだろう。緯とは織物の横糸、あるいは東西の方向の意味。「死ぬ時は霧が流れている」から始まる文体は折口信夫の「死者の書」を思い出させる。ところで、著書のタイトル『閾』は(いき)(しきい)と読む。あきらかに本文の詩の一章ごとのタイトルを統べる総タイトルなのである。しきいは外と内を仕切る場所。それは家のしきいであり、生死の境をも象徴しているのだと思う。作者に『残像』という好評を得た句集がある。「琉同人」

坪内捻典評論集『カバヤ文庫の時代』 2011年 沖積舎

2011年11月10日 木曜日

坪内捻典コレクション 第一巻

先日結社「鷗座」の十周年祝賀会で坪内氏の講演を聞いた。坪内氏から外せない話題は甘納豆である。好きと言うわけでもないが目の前にあったので一句作ったことから、どうせなら12ヶ月作ろうと思い立ったのがきっかけだったらしい。甘納豆のあとのこの頃は朝はあんぱんにしているという。何かが生れるというより、そうしたことから自分を変えられるかもしれないという想いがあるという。この自分を変えるという言葉に魅かれた。

次に坪内氏から連想するのは河馬である。全国の河馬を訪ねて歩くということをしていた。多分河馬を訪ねたのは「カバヤ文庫」からの発想なのだろうと、この「カバヤの時代」で感じた。カバヤキャラメルのおまけを集めて本と引き換えるのである。特等には奨学金もあったらしい。らしいというのは、私が何故かカバヤキャラメルを買った記憶がないからである。おまけで貰えるカバヤ文庫のリストも揃っている。

3章目は俳句のまわり
坪内氏の俳句論であると同時に読書論でもある。

4章目 詩集「石斧の音」

『吉田鴻司全句集』  2011年 鴻出版局

2011年11月10日 木曜日

現在ある雑誌「鴻」は吉田鴻司の名前から始まっている。文庫本大だが句集「平生」「頃日」「山彦」「神楽舞」「平生以後の遺句集」を網羅しただけではなく略年譜をはじめ初句索引と季語索引、それに「鴻」に連載されてきた「吉田鴻司の人と作品」が収録されている。

  出羽びとの雪を加へて鋤き返す    「平生」より
  雪像のうしろにもある鑿のあと

川口襄第三句集『蒼茫』 2011年 喜怒哀楽書房

2011年11月10日 木曜日

肩車されて見てゐる蜃気楼
田植笠風が子守をしてをりぬ
母がりは荷を解くところ月見草
青梅を捥ぐ綺羅星を摘むやうに
夜話の輪の中にゐるペルシャ猫

主宰「小澤克己」亡きあとの「爽樹」編集長。安定した詠みぶりのなかに新鮮さが感じられる。

横山民子第一句集『象の骨』  2011年 文学の森

2011年11月10日 木曜日

彗星の近づいてゐる辛夷かな
テーブルに蟻の来てゐる湖の風
同時テロのその裏側の吾と虫
金風や象の現れたる地平線
銀河降るアフリカの夜をわがものに

1939年生れ。「門」同人。吟行も海外、それもアフリカ・ケニヤを訪れたことが成果に繋がっている。

山崎十生句集『恋句』  2011年  破殻出版

2011年11月10日 木曜日

忘れないためにひたすら芹を摘む
振り出しに戻り夕顔見てゐたり
辛抱が足らぬと月に言はれけり
われらふたり芒長者となりにけり
蝋梅の香りに凭れ人を恋ふ

恋句の多い事に気がついて、「恋句」というタイトルで、収集した一集である。

豊田都峰第九句集『水の唄』 2011年  文学の森

2011年11月10日 木曜日

  ひとすぢの窯変青葉闇の奥
  島よりも大きな月が出て祭り
  また日の斑遊びに来てゐる豆の花
  山越ゆる雲へ手を挙ぐ桐の花
  青き踏むいつしか丘を占めにけり

「京鹿子」主宰。平成21年以降の句を収集してありのままを発表としていると後書きにある。

中村堯子第三句集『ショートノウズ・ガー』 2011年 角川書店

2011年11月10日 木曜日

   薇を干せば神々足を組む
   新世紀毛虫焼く火を掲げゐて
   四方より木が家囲むおじやかな
   空つ風老いてぢやらつく首飾り
   つつじ山煮汁ののぼる落し蓋

中原道夫主宰「銀化」所属。タイトルは短い鼻で、短詩形の俳句を象徴しているようである。取り合せの妙を発揮している。

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