有住洋子著『閾』  2011年 文芸社刊

 一見エッセイのようだが、これはあきらかに詩集である。一章ごとのタイトルも全て漢字一文字「界・翳・条・像・皮・片・残・綾・層・経・緯・覚」となり、すでに抽象的な匂いがしてくる。一章目は「界」は子守歌が聞こえてきてそこから思い出す風景を綴ってゆく。そこから立ち上がる映像はあくまで確とは輪郭を現実には引き寄せない。言ってみれば夢の出来事を後追いで再現しているのである。この傾向は最後まで及んで、不思議な陰影を作りだしている。

 タイトルの一つ「緯」は「い」と読むのだろう。緯とは織物の横糸、あるいは東西の方向の意味。「死ぬ時は霧が流れている」から始まる文体は折口信夫の「死者の書」を思い出させる。ところで、著書のタイトル『閾』は(いき)(しきい)と読む。あきらかに本文の詩の一章ごとのタイトルを統べる総タイトルなのである。しきいは外と内を仕切る場所。それは家のしきいであり、生死の境をも象徴しているのだと思う。作者に『残像』という好評を得た句集がある。「琉同人」

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