‘他誌からの転載’ カテゴリーのアーカイブ

避暑の宿椅子の形に身を添はせ   岩淵喜代子

2017年10月21日 土曜日

「ランブル」10月号・現代俳句鑑賞 筆者今野好江

『俳句四季』八月号 「かくれ里」より
夏に都会の暑さを避けて海山に涼を求める〈避暑〉。このたびは貴人の住みそうな山里の館であろうか。宿の椅子は籐製のものかも知れない。

籐椅子あリタベはひとを想ふべし  安住  敦
籐椅子に沈みてうすき母の膝    古賀まり子

宿の椅子は磨かれてはいるものの自然の窪みはいかにもと諾う代物である。〈椅子の形に身を添はせ〉という起居の静けさに惹かれた一句である。同時掲載に(空蝉として遺るなら透けるなら)。

 

「太陽」10月号 「秀句の窓」 筆者・吉原文音

リラックスした体が椅子と同化している。心地よさや安堵感が滲んでいる。

青梅のなか暗闇と思ひけり   岩淵喜代子

2017年10月20日 金曜日

「天為」10月号 現代俳句鑑賞  筆者米田清文

「俳句四季」8月号 かくれ里
梅雨に入る頃になると、梅の若葉がこんもり茂りその陰で実が丸々と太り、遠くからはわかりにくいが木の下に行くと葉がくれに累々と青い実が生っています。葉の色も梅の実も青く、一見すると区別がつかないときもあります。
掲句は青梅のなる茂った葉の中を「暗闇」といい、若葉の中の青梅の実の瑞々しさとその生命力を引き立ています。

春雷の次を待つごと立ち尽くす   岩淵喜代子

2017年8月25日 金曜日

「春嶺」8月号  現代俳句瞥見   筆者 縣 恒則

「春雷」は夏の雷と異なり、一つ二つで鳴りやむ事が多い。作者は、ゴロゴロと鳴った春雷を耳にし、次の雷鳴を待ってたちどまってしまったというのである。通常なら、次の雷は避けたいものだが、俳人の春雷への関心や好奇心が受け止められて興味深い。

三日月に吊しておきぬ唐辛子   岩淵喜代子

2017年3月14日 火曜日

「遠矢」4月号
現代俳句月評  筆者・景山 薫

「俳句」12月号「子規忌」より。 夜窓のカーテンを閉めるときの景ではあるまいか。凡人なら乾かしている唐辛子の乾き具合にしか目がゆかず、それを確かめただけで窓を閉めたであろう。しかし作者は違った。目線を上げ、くっきりとした三日月を見つけた。

白い三日月と真っ赤な唐辛子。この二つをドッキングさせるため、三日月を鉤に見立てた作者の炯眼。童話の一シーンになるようなメルヘンチツクな一句。

一切皆空もくもくと毛虫ゆく    岩淵喜代子

2017年2月17日 金曜日

『ランブル』2月号

現代俳句鑑賞62   筆者 今野好江

『俳句』十二月号 「子規忌」より
上田五千石の『俳句塾』の中に季語に関する一文がある。「季語にはなるべくして季語になった事由がある。歌人、連歌師、俳諧師、俳人の審美眼によって汎く平俗の言葉の中から採取、且つ培養、育成、愛用されて日本の歴史の永く深い時の鍛冶(たんや)を経て結晶化した詩語であることの尊厳をこそ思うべきである。――――」

筆者自身、初学の頃、蚤、民、芋虫、軸蜒、ごきぶりに至るまで季語であることに驚愕した。やがて毒性もあり、人を刺す嫌われ者のたとえにもなる〈毛虫〉でさえ、愛情とまではいかないが普通に見ることが出来るようになった。〈一切皆空〉とは仏教語であり、あらゆる現象や存在
は実体をもたず空であるという言葉である。これは心の迷いを去って真理を会得ことなのかも知れない。悟りきれない人間には、〈もくもくと〉ゆく毛虫を少し羨ましいと思っている。同時掲載に
三日月に吊しておきぬ唐辛子

芋虫に手があり一心不乱なり   岩淵喜代子

2017年2月7日 火曜日

『饗宴』3月号    現代俳句の窓
筆者・中村克子

芋虫は蝶や蛾などの燐翅目の昆虫の幼虫類全般を指していう。キャベツなどを食い荒らす青虫も芋虫の一種だという。我が家の無農薬菜園にも芋虫がのさばている。ことに青虫が多く、毎日が青虫との闘いである。

芋虫に足が3対6本あるとは言われているが、手があることは知らなかった。イモの葉やキャベツなどを食い荒らす害虫も、自分の命を守るために一生懸命である。”一心不乱なり”にどこか憎めない面白さがある。
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『燎』2月号   現代俳句展望
筆者・蔵多得三郎

「俳句」12月号「特別作品21句 子規忌」より
掲句、何だか自分のことを言われているような気がする。よく見ると芋虫は芋虫なりに一生懸命に手足を動かして這っている姿があまりにも一心不乱でつい笑ってしまうのだが、よく考えてみるとひょっとしてこれは自分自身の姿そのものではないかと思えてくる。「一心不乱なり」の措辞に生真面目な可笑しさがある。

葛の根を獣のごとく提げて来し    岩淵喜代子

2017年2月2日 木曜日

『風土』2月号   現代俳句月評  ・筆者・中根美保

「俳句」12月号(子規忌)より
獣でもないものを獣のようだという作句例は多いが、掲句は「提げて来し」が眼目。山に入り、澱粉を蓄えて肥大した葛の根を掘り出して来た人物の様子を詠んでいる。葛の根もまた猪などの捕獲物と同様、山の恵みという背景にあろう。

繁茂し過ぎて他の植物を駆逐するほどの葛の生命力も思われる。葛の根を「獣のごとく提げ」て来たのは、ときには山から本当の獣も提げ返ることだってある山の男なのかもしれない。

石榴から硝子の粒のあふれだす  岩淵喜代子

2017年2月1日 水曜日

「空」2017年2・3月号
俳句展望  筆者・天谷 翔子

(『俳旬』十二月号より)柘榴のあの赤い美しい粒を詠みたくて何度か考えたことがあるが、ルビーのようなという平几な言葉しか浮かばなかった。硝子の粒、そう、あれはまさに硝子の粒。しかも〈あふれだす〉という措辞の上手さ。

同時掲載の〈道祖神今日は団栗山盛りに〉にも惹かれた。道祖神の前に団栗が置いてあるという平几な景が、〈今日は)という措辞で一気に佳句になる不思議。毎日道祖神を訪れる子供たちがいるのだろう、昨日、一昨日は何がおいてあったのだろう、と想像させる。〈山盛りに〉も映像が鮮明で、道祖神への愛情の溢れた表現だ。

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「火星」2月号 俳壇月評より
筆者・坂口 夫佐子

『俳句』十二月号「子規忌」より).割れた柘稽の実はその色、形から凡そ美しいものの代名詞からはかけ離れたもの、寧ろグロテクスなものとして扱われることの方が多いように思う。

それがあの割れた赤い実の粒粒を「硝子の粒」と捉えたことによつて、日の光を返す宝石のように見えてくるのだから、言葉の持つ力は大きい。俳句は詩。固定観念を捨て去り、素の心で対象に向き合うとき、思いがけない発見があり、詩情豊かな句が生まれる。
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『麻』1月号       現代俳句月評
筆者・川島一紀

『俳句』十二月号「子規忌」より。柘溜の実は、熟れてくると、堅く厚い皮が割れて中にぎつしりと詰まった淡紅色透明の液体を周囲に含む種が見えてくる。この淡い赤色の透明な粒は非常に美しい。ますます割れ目が広がってくると、その粒がこぼれそうになる。その透明な淡赤色の粒を硝子の粒と称した表現に詩情が溢れる。石榴の粒を硝子の粒に喩えた感性に感服。

一切皆空もくもくと毛虫ゆく   岩淵喜代子

2017年1月27日 金曜日

『郭公』二月号 俳壇の今    筆者・山上薫

(「俳句」12月号『子規忌』より)
一切皆空。あらゅる現象や存在は実体がなく空である。むずかしい仏教用語も這い進む毛虫には関係のないこと。国際政治とも、金融政策とも、テロリズムとも、難民とも、そして、我が家の買い物リストとも、何の係わりもなく毛虫はゆく。

この融通無碍さはどうだ。毛虫よ、何をどうすればお前のようにもくもくできるのかね。毛虫が答える。わからないよ、おれはただもくもくしているだけだから。もくもくと働くもくもくじゃない。もくもくと煙の立ち昇るもくもくじゃない。ただ、もくもく。俳諧味。ああ、それを言っちゃおしまいだ。もくもくすることだけがもくもくなんだから。もくもくと。ゅく。ゆく。ね。

ににん 秋号 通巻六四号 季刊

2017年1月24日 火曜日

『好日』 2月号より、俳誌月評  筆者・須田眞里子

代表 岩淵喜代子。平成一二年岩淵喜代子が埼玉県で創刊。発行所朝霞市。「同人誌の気概」ということを追求している。

岩淵喜代子作品「余韻の水母」より
一碗の重湯水母のおもさあり
生涯は水母のごとく無口なり

ににん集
我が書架の有限なるや春の塵    木佐梨乃
星の夜の書架万物に見透かされ   木津直人
こほろぎの潜みし書架や方丈記   栗原良子
秘の文書しまふ地下書庫冷まじや  西方来人
書架奥のチャタレイ夫人火取虫   鈴木まさゑ

さざん集
抽斗に釦いつぱい盆の月      尾崎淳子
3Dメロンの網の小宇宙      鬼武孝江
くすり飲む時間となりぬ酔芙蓉   川村研治
揺れ戻す揺れ戻しては吾亦紅    兄部千達
輪郭の鯰となつて泥動く      高橋寛治
遠雷や古木の卓の台湾茶      谷原恵理子
先へ先へ影飛んでいく秋の蝶    浜田はるみ

木佐梨乃氏「英語版奥の細道を読む」、
高橋寛治氏「定型詩の不思議」、
正津勉氏「落丁愚伝」。
秀句鑑賞は岩淵喜代子代表
「ににん反芻」、浜田はるみ氏「十七音の宇宙」。

巻末の「雁の玉章」は、岩淵喜代子代表を含む四氏の個性豊かなエツセイ集である。

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