「ににん」夏号(通巻八三号)
平成十二年秋、埼玉県朝霞市で岩淵喜代子が創刊。「『同人誌の気概』ということを形にしてゆきたい」をモットーとする季刊誌である。代表岩淵喜代子、編集長は川村研治である。
本号は同人誌谷原恵理子句集『冬の舟』を特集とし、山野邉茂、林誠司の両氏が当該句集を多角的見地から論評している。また、同人の作品群は、「ににん集」「さざん集」にあいうえお順に収録されている。
本誌は一般の俳誌と異なり、選評が少なく、高橋寛治の「定型詩の不思議」、西村麒麟の「僕の愛する俳人」、正津勉の「詩歌紀行」の連載など評論やエッセーが圧倒的に多いのが特徴である。また、「ににん集」は、全句が「危険」をテーマとしているのが興味深い。
「ににん集」より
鏡のやうな冬の泉は危険です 岩淵喜代子
目にみえぬ危険の匂ひ春の闇 川村研治
その角は危険な香り冷奴 木佐梨乃
石鹸玉うすく危険な世を映す 木津直人
危険なる春爛漫の地球かな 栗原良子
危険には匂ひありしか沈丁花 小塩正子
危険とは恐れることよ草いきれ 高橋寛治
蛍火の危険な闇を手探りで 武井伸子
危険な男に白き単衣を着せてみる 谷原恵理子
香水の瓶は鶴首危険な夜 近本セツ子
「さざん集」より
ロシアンひまわりお辞儀ばかりの母 田中美佐子
引き鶴の如く旅立つ吾が厳父 千葉 隆
抱かれて藤房に手を触れし子よ 同前悠久子
箸莪の花空家となりし写真館 中島外男
髪留めに溢るる髪や夏近し 服部さやか
青葡萄寺院の白きロマネスク 浜田はるみ
急かされて吉野葛買ふ花の雨 牧野洋子
終点は線路の先の夏の湖 三島やよい
バス停まる能登半島の青岬 宮本郁江
連弾の街角ピアノ蔦若葉 村瀬八千代
「ににん」のホームページには、「俳句の俳とは、非日常です。日常の中でもう一つの日常をつくることです」とある。本誌は、「俳誌」というより「文学同人誌」的色合いの濃いのが大きな特徴であり、季刊誌「ににん」がその独自性を保持しつつ、更なる発展を遂げるよう期待し見守ってまいりたい。