(風をまたぐ)、この措辞にまず意表をつかれた。こう表現されたことで、本来は色も形もない秋風が形象化されて、読み手にも見えるように差し出されたのである。その色なき風を老いた象のゆっくりした足取りがまたぎながら近づいてくるのを作者は待っているのである。他に
太き眉持たねばならぬ花守は
手の届くあたりに眼鏡おぼろの夜
人知れず背筋を伸ばす蛇笏の忌
隅つこの好きな金魚と暮らしけり
雲の峰こんなものかと骨拾ふ
裏表なきせんべいよ母の日よ
桃の花腕組む父の待つもとへ 『時効』2015年 ふらんす堂
岩淵喜代子