『遊牧」2018年4月号
ーー好句を探るーー筆者・清水伶
句集『穀象』より。掲句、 一読して、3 ・11の津波による死者の遺骨を探 しているという、未だに拭えきれない大きな哀しみを思 ってしまう。 「骨」とは人間のいのちと死がだきあって いる存在であるから、「骨」を探すという行為は、正に 「いのちを探す」という行為そのものなのである。
あまりにも辛い想いを書いてしまったが、素直な一句 一章で読めば、骨を持てないはずの水母が自分の「骨」 を探してはまた波間を漂っている、という少々メルヘン チックな見立てが独自である。
水母は肉体を抜け出てさまよう魂のように、純白で透 明であり、けがれなく清らかなことは、原始的、宇宙的 な雰囲気もある。 この素朴で律義な生命体の実感が、人 びとに生き死にの神秘を感じさせ、平明な書き方であり ながらも一句全体につめたく皓い光を放っている。 水母は以前よりも一層白く透明になって、深い海の間 を、永遠に自分の骨を探して彷徨っているのである。
忘れよと水母の海に手を濡らす 喜代子