撓うことがないような鶏頭の花も、さらなる強い風が吹けば風の行方に流されてしまうのである。作者は貂の主宰者だった川崎展宏の匂いを句集の随所から届けてくれる作家である。
俳句という文芸は何でもない風景を詠むものなのだと改めて知る。風が鶏頭の花を傾かせたことを言うだけなのだが、それが作者の視点を通して鶏頭花を浮き立たせてくれるのである。
水が水追うて麓へ蕗の薹
木槿か明くる木曽路となりにけり
あたたかし戸袋へ戸を押しながら
揺れ戻す首のちからや白牡丹
いつのまに二百十日めの御飯
つまんだる指が映りぬ柿羊羹
『五風十雨』 2016年 ふらんす堂