2010年10月 のアーカイブ

金原まさ子句集『遊戯の家』 2010年 金雀枝舍

2010年10月31日 日曜日

「草苑」創刊からの参加、という略歴でなるほどと宜うものがある。象徴性を生かした、何処へ連れれていくのか分からない面白さがある。自らが(99歳の不良少女の第3句集)と添えているように、1911年生れ。その年齢を知らなければ、若い方の作品集だと思ってしまう。どこを開いても魅力的である。

  祖父失踪そらまめが茹であがる
  丸善を椿が出たり入つたり
  首に巻き忘れてしまう藤蔓は
  空蝉はまるごと蜜に漬けるべし
  昼顔のやうに枕へたどりつく
  さびしくて畳にじかに烏瓜

鳴門奈々氏が句集題を命名。今井聖氏が帯文を添えている。

能村研三句集『鷹の木』 2010年 東京四季出版

2010年10月31日 日曜日

沖主宰の第十六回俳人協会新人賞受賞の句集の再収録で、文庫本仕様である。

   雛段に役に立ちたる蔵書かな
   牡丹の芽その裏は猫の通り道
   春の暮老人と逢ふそれが父
   種袋やや咲きすぎの絵柄にて
   放縦な枝ともならず桑解かれ
   筍を掘つてくらくら立ちしかな

以上に抽出したのは、滞空時間(平成元年~二年)のある見開きの部分のすべてである。この前後にも好感をもつ作品が並ぶ。俳句というものは、いつでもコンスタントに作れるものではない。作者がこの時期にことに充実していたのが感じられる。

『曉』11月号  主宰・室生幸太郎

2010年10月30日 土曜日

受贈しを読む⑱       筆者 桑田和子

 「ににん」(平成二十二年夏号)
 平成十二年十月、朝霧市にて岩淵喜代子により創刊。代表。同人誌の気概というものを追及していきたい。通巻三十九号。季刊。

  鬼の子に見せてあげたい万華鏡      岩淵喜代子
  狐火を見し人逝きぬ薔薇の雨       々
  
     おもしろてやがてかなしきえごの花  伊丹竹野子
  韓国を望む岬の海照らし                 宇陀草子
  万病の薬は眠り草青む                   尾崎じゅん本
  万緑や耳をすませば羽の音              武井伸子
  教へ子に教はる歌や花万来              牧野洋子
  万緑や紙石鹸の匂ひして                 宮本郁子
  やはらかなものばかり食べ雛の日     川村研治

 評伝『頂上の石鼎』岩淵喜代子著・第四十一回埼玉文芸賞受賞記念特集が組まれ、酒井佐忠氏の書評に始まり、寺本喜徳・西村和子・石田修犬・小川軽舟・五島高資・坂口昌弘・藤本安騎生氏等の書評を転載している。

  かなしさはひともしごろの雪山家     原 石鼎
    秋風や模様のちがふ皿二つ
    頂上や殊に野菊の吹かれ居り
    秋はあはれ冬はかなしき月の雁

 酒井氏は、本書は石鼎の人物像や何業など石鼎文学の本質を多様な角度から入念に追求した好著であると述べている。また、藤本氏は『頂上の石鼎』は、俳人として、人間としての石鼎の栄光と哀切を師愛の精神と視座を貫いて書かれていて読後が清涼であると述べている。著者は石鼎の句の生み出された現場に幾度も足を運び執筆されたようだ。

 他に牧野洋子氏の「何何燦燦~〈万〉いろいろ」、正津勉氏の「歩く人・碧梧桐」、田中庸介氏の「わたしの茂吉ノート」、長嶺千晶氏の「預言者草田男」、木佐梨乃氏の英語版「奥の細道を読む」等、夫々の書き手の気概を感じた。

頭痛・肩凝り・木枯し一号

2010年10月27日 水曜日

昨夜は久しぶりに荻窪の鍼灸院に行ってきた。頭痛と肩凝り、それに加えて不眠が続く。さらにはストレスもある。頭痛・肩凝りが不眠につながるのか、不眠が頭痛・肩凝りに繋がるのかわからないが、とりあえず体の気の流れを変化させて貰わないと危険なのだ。

帰りの電車の吊革に掴まっていたら斜め前の席に夏石番矢さんが座っていた。「番矢さんと呼んだが、横文字のプリントから目を離さないので、膝に乗せているカバンを揺らしたらようやく気がついた。イスラエルからの帰りだそうだ。

行く時は暑かったし、あちらは今も暑いのだが、帰ってきたら秋も深まっていたという感じらしい。明日は朝霞の鍼灸院によってから勤め先の学校に行くそうだ。若い時の交通事故の後遺症から、やっと合う鍼灸院を見つけたそうだ。その鍼灸院の場所も知っているのだが、やはり知らないところは気遅れがしてなかなか入りずらい。

鍼灸院の帰り道は快い疲れでなんだか眠れそうだったので、パソコンも開けずに早寝をした。たしかに、体の気の流れが変わったようだ。それは何だか精神にも影響するような気がした。抱えていた漠然としたストレスもどうでもいいような気になっていた。

番矢さんが日本は一気に冬になっていたと言ったが、夜から木枯し一号が吹いたようだ。

iPad

2010年10月17日 日曜日

清水哲男さんと飲み合うのは一年ぶりかもしれない。「ににん」38号でiPad称賛の文章を書いていたが、そのときはまだ手にしなかった筈。今回出会ってすぐ「僕が買わないわけがないじゃない」と、iPadをカバンから取り出した。

カバンはiPadを入れるためにあるようで、それを出したカバンはペチャンコになった。パソコンより文字が太くて眩しくない画面は読書も楽にできそうだ。メールも文字入力も試させてもらった。

やはり私も買うだろうな。でも今になって買うのは少し遅れを取っているので、次の新機種にしようか、などと思いながら帰ってきた。清水さんの年齢でパソコンに精通している人は見たことがない。

でも、振り返ってみると、「パソコン」という言葉を聞いたのは30年くらい前だと思う。それも清水さんからである。まだ清水さんとも活字の上でしか知らなかったころだ。荒川洋治グループの詩のアンソロジーに参加したときに、巻末に清水さんをはじめとする著名な5人の詩人がベスト五を選んでいた。清水さんの五編に私の詩も入っていた。

その選評のコメントに「今娘とパソコン遊びをしたあとの快い疲れの中にいる」とあった。あのころからパソコンを手にしているのだ。当時そのパソコンという文字を見てもイメージ出来なかったのを思い出す。

はがきハイク

2010年10月16日 土曜日

IMG (2)さいばら天気さん・笠井亜子さんの作品集。その名の通りハガキに盛れる量だから、見るつもりのない人でも全部に目を通してしまうだろう。

栞代わりに読みかけの本に挟んで、また電車の中で読んでいると、何か自由な詠みかたに共感して、思わず「いいなー」と呟いている。

どちらも実像から虚へ誘う詠みかたなのだが、少し違うのはさいばら天気さんはその実像が実像のまま虚へ誘う。そうして、笠井亞子さんの句は実像から夢想へ誘われていく。どちらにしても、何度見返しても面白い。

大木あまり第五句集『星涼』 2010年9月 ふらんす堂

2010年10月11日 月曜日

煮くづれの小魚九月十一日
すいつちよに灯さぬ部屋の人形かな
野遊びのやうにみんなで空を見て
しみじみと汗かいてゐる夜食かな
野の蝶の触れゆくものに我も触る
照りつけて朝のはじまる稲の花
長病や春の野菜の浸しもの
逝く猫に小さきハンカチ持たせやる

力をぬいて自然に身を任せている作者の取り合わせ。それは取り合わせという観念もなく自然に見えるものを選び取る、という作り方だ。例えば「煮くずれと九月十一日のテロ」「すいつちよと人形」「長病みと野菜の浸しもの」など。

八田木枯第六句集『鏡騒』 2010年9月  ふらんす堂

2010年10月11日 月曜日

寒靄や老は泳いでゐるごとし
日のくれの冬木は肘を張りにけり
蝶を飼ひ人差指はつかはずに
永き日をひとりでをれば塵もなき
鶴よりもましろきものに処方箋
國に恩賣りしことあり蠅叩く
繪草紙を買ひにやらせる暑気中り

1925年生れ。現代俳句協会賞を受賞している作者は表現を自在にあやつる。いや、そう見えるほど苦渋のあとを残さない完成度を持っている。どれを、と抜き書きするならどれも端から書きぬきたい自在さを得た作品である。

能村研三第六句集『肩の稜線』2010年9月  本阿弥書店

2010年10月10日 日曜日

川と川音なく合うて寒募かな
枯蓮の透きし向うに父の墓
初夢になくてはならぬ翼かな
埋め戻す土余りたる冬旱
聞き耳の耳に及びし冬日かな
冬瓜の黙つて土間に置かれあり
蘇鉄咲く花と思へば花かとも
雷三日屋敷欅の育つかな

「沖」主宰の作者は淡白な人柄のように見受ける。それが透明感をもつ句風となり、快い癒しの作品集となている。

《星野紗一全句集》2010年9月  東京四季出版刊

2010年10月9日 土曜日

第一句集『ねばりひき』
オーバー貧し馬が重なり写る玻璃
冬の香水小さい椅子に待たされて
冬の水飲みぬ妻子が寝ねてより
パンの皿より軽しモンマルトル枯れ

第二句集『木の鍵』
何も書かない黒板光り秋の蝉
白を失なふ鶏のだんまり冬の霧
満月の丸太ごろごろ逢引す
大学の入り口よごれ寒雀
もう一人の俺が陽気な黄風船

第三句集『鹿の斑』
鹿を見てゐて鹿の斑が妻に
狐火の近づき白き置柄杓
賢者の目愚者の目ごきぶり増ゆる国

第四句集『置筏』
渡り鳥消えたるあとの置筏
むかしむかしの尾がのた打つてゐる野焼
太陽に輪がある不思議鬼芒
冬桜近くて己が眉が見え

長谷川かな女に難解派と呼ばれていたのが頷ける作風が見られる。自ら俳句と格闘しながら、もっと上を目指す理想派なのではなかったか。その形を抜けようとするエネルギーが、作者の呼吸を読み手に伝える。

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