2012年4月 のアーカイブ

鳴戸奈菜句集『永遠が咲いて』2012年 現代俳句コレクション

2012年4月28日 土曜日

俳句のみならず文学表現は、日常を非日常にしたところ、あるいは非日常を日常に近づけたところで切り取るものだと思っている。鳴戸さんの俳句にはそれが顕著で楽しい句集だ。

  亀鳴くを待てばいつしか亀となる
  筍の茹で上がるまでひと眠り

一句目は、見方によっては虚構の上に虚構を積み上げたような句である。それにも関わらず納得してしまうのは、語り継がれた「亀鳴く」という季語が輪郭を持っているからである。二句目の「筍の」は、さいごの「ひと眠り」の措辞が「一炊の夢」のような物語性を醸し出して、日常を非日常へ置き換えるからである。

 桐は花明日は伐られて船の上
 女役降ろされ蛇を撫でてをり
 いとけなき蛇をおもちゃの女の子 
 水溜り冬のはじめは春に似る
 冬野より帰れぬ母よさようなら
 老斑の二つ三つが花あやめ
 また春で我家に我に飽きにけり

河野邦子第三句集『急須』 2012年4月  ふらんす堂

2012年4月27日 金曜日

結社『浮野』の編集に携わってからでも30年と、あとがきにある。その年月の重みが河野氏の俳句の骨法になっている。もう俳句という形もゆるがない。そう思えるのが

ひよどりをあいつと呼んでみたりする
雪渓を母に説明してきたる
朱鷺草のあるはず浮野うかぶはず

「ひよどり」の句の座語の据え方、「雪渓」の叙述の方法、そうして「朱鷺草」の句の把握の間の取り方、すべてに年月の積み重ねを感じる。以下の句にある平常心も見事。改めてその句集名『急須』を想った。

学校のプールに蛇の泳ぎけり
冬帽子役場の門を過ぎて海
白芙蓉この世に未練なきごとく
瀬戸の島買いたきほどの島の数

佐藤郁良第二句集『星の呼吸』  2012年4月 角川書店

2012年4月27日 金曜日

黒板は濃き森の色十二月
冒頭にトンネルを置く旅始
寒稽古空気の皺をのばりけり
すぐ先の未来を手繰る平泳ぎ
蒲団叩く団地に谷間ありにけり
朧夜の汐入川の匂ひかな
春眠の髯を育ててをりにけり
山々に神のあらそふ青嵐
音もなく日暮を運ぶ蟻の列
ゆきずりの真水のやうな藍浴衣
つまらない街閉じ込めよ石鹸玉
花冷の楽屋出てゆく楽屋口

昭和43年生れの佐藤氏は俳句甲子園育ち、ということも含めて初めから俳壇の話題性を攫っていた。そうして第一句集で俳人協会新人賞も受賞。そういう意味では、才能を十二分に認めて貰えた幸運な作家でもある。俳句生活の最初から俳壇の中に居た、という感じがする。佐藤氏の俳句の上手さの一つは比喩、二番目は感覚のよろしさだろう。

増殖する俳句歳時記

2012年4月22日 日曜日

 このところ「喜代子の折々」をサボっているのではないの、と言うひとがいた。たしかに更新の頻度が減っていたかもしれない。ほんとうをいうとあまり下らないことを書いてもしかたがない、という自省の思いがあったからである。でも今日は嬉しいことがあったので書きとめておく。

 今日の「増殖する俳句歳時記」に、「にににん」の木津直人さんの句が採用されている。いまさら紹介するまでもない「増殖する俳句歳時記」だが、七人の評者のひとりが交替した。その新しい書き手の小笠原高志が「ににん」春号から見付けだしてくれたのが「雁帰る沖にしづめる剣いくつ  木津直人」である。

評者小笠原さんについては、もうすでにどこかに紹介されたとはおもうのだが、正津勉さんを中心に行われている万愚句会のひとりで爽やかな青年である。すでに俳句評を読んでもわかるように彼の持っている真摯な文学教養を十二分に発揮した文章で楽しみである。

本阿弥書店『俳壇』5月号

2012年4月20日 金曜日

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野点

2012年4月18日 水曜日

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 日曜日に、香港在住のににんの仲間が加わるというので、小金井公園の桜吟行となった。染井吉野は少し盛りを過ぎていたが、一人が野点の用意もしてきてくれて優雅な野遊びから始まった。和菓子の美味しさも加わって、八人ほどの仲間がみんなお薄の代わりを所望した。そんなに大きな魔法瓶でもなかったのに、注げばきりなくお湯が出た。誰かが、本当の魔法瓶みたいと言った。

 夕方野川へ移動した。両岸に植えられた枝垂れ桜が夕陽の中に続いていた。今度は香港へ吟行に行こうという話になり、それなら上海蟹の美味しい時期がいいのではないか等々話は尽きなかった。同じメンバーが昨日の夜の荻窪カルチャーに集合。香港からのAさんも最後の東京の夜だった。

NHK学園「俳句」2012年春号

2012年4月12日 木曜日

◆四季の季題とその作品鑑賞◆   筆者 太田土男(「草笛」代表)

   悪行をつくして蝶となりにけり    岩淵喜代子
 
 第三句集『硝子の仲間』(平成15年刊)に収められています。不思議な句集名と思われるから知れませんが、〈空蝉を硝子の仲間に加へけり〉の一句から採っています。空蝉のあの感触を「硝子の仲間」と見る感覚はよく分かると思います。まさにここに岩淵喜代子のポエジーがあります。
 蝶の句も、彼女のポエジーです。「悪行をつくして」とは、人間の視点です。数ミリの蝶の卵は孵化すると脱皮を繰り返し、終齢にもなればその食欲は凄まじいものがあります。耳を澄ませば、咀喝音すら聞こえることがあります。もしその植物を栽培しているものなら、「悪行をつくして」といいたくもなるでしょう。しかし、一歩突き放してこの句を読んでみると、作者は案外拍手をしているようなところがあります。『堤中納言物語』には、「虫愛づる姫君」という話がありますが、その姫君のように、蝶の生態を肯定し、いのちを賛美しています。私は俳句の一つの課題として、あらゆる生きもののいのちを詠む。それが大切ではないかと思っています。東日本大震災を契機にいよいよその思いを深くしています。

花吹雪

2012年4月11日 水曜日

はなびら
花を待っていた時間は長かったが、咲いてしまえばもう終わりである。夕べから今朝にかけての大風で出来た花弁の吹きだまりの嵩。

『現代の俳人像』 戦前・戦後生れ篇

2012年4月8日 日曜日

先日ブログUPしていた俳句四季出版の『現代の俳人像』についての記事が今朝の毎日新聞にあった。
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開花から三日目

2012年4月6日 金曜日

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お花見の準備も整った黒目川沿いの桜も開花から三日目。六分咲きというところだろう。川土手に雪洞が並び、岸には舟が繋がれていた。その舟のある岸には舞台もしつらえられたので、明日と明後日は賑わうのだろう。川原にはお花見茣蓙がもう陣取りをしていた。

話は変わるが、今年の2012年は「古事記」が編纂されて1300年になるのだという。日本最古の歴史書「古事記」の解説書は毎年新しく出版されて話題が尽きない魅力ある世界である。先日ふと手にしたパンフレットに横浜と恵比寿の両方で六回ほどの古事記の講演がある。それも、別々の講師なので両方聞いてみることした。出雲神話を訪ねたばかりで、心惹かれる話題なのである。その第一回が明日、間に合えば黒目川の夜桜を見て帰ろうと思う。

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