一軒の家のまはりの稲の花   鳥居三郎

稲の花がどこまでも続いている風景は、平安の象徴のような風景である。それなのに今年は、多くの地域で河川氾濫をもたらした台風で稲田が水没した映像を幾度となく見せられた。

稲田を詠むのは難しい。もう稲田というだけで、あるいは稲の花というだけで、風景の大方は掬い上げられているからである。その稲の花の盛りの田圃に一軒の家を配置して、視点のよりどころとしたのである。ほかに(田のなかの白鳥まぶた閉じてゐる)(ふくろふの歳を思ふに夜の明けぬ)(薮椿落つる辺りの暗さかな)など。

「鳥居三郎句集『てつぺんかけたか』 2015年 木の山文庫」 (岩淵喜代子)

コメントをどうぞ

トップページ

ににんブログメニュー

HTML convert time: 0.201 sec. Powered by WordPress ME