俳壇の諸作 筆者 大石香代子
万緑や火の坩堝から汲むガラス 岩淵喜代子
俳句9月号 「半夏生」より
森のなかのガラス工房が思われる「万緑叢中紅一点」の故事成語にある紅花を、坩堝から巻き取った金属パイプの先の真っ赤な溶解ガラスの一玉になぞらえ、それが周囲の木々の緑に鮮やかに映えるさまに転化した句は、現代的な美とエネルギーに溢れている。すぐさま息が吹き込まれてどんどん成形されて製品となることを、下五の硬質なカタカナ表記が伝える。冷えたガラスはやがて木々の緑に新しい息吹を与えるようだ。