著者のあとがきによれば、題名の「鯨」は付けたい雅号でもあったようで『鯨のこゑ』は「私のこゑ」くらいな謂だと書き記している。一書は副題「 俳誌「滝」虚実潺潺セレクション」でもわかるように、ながい年月俳誌「滝」に書き続けてきた随想であり俳論である。
随想は折に触れて感応したものを書き込んでいるが、その内容に共通するのは、「滝」の本拠地である宮城とその周辺の所縁を持った人の話題であることで貫かれている。例えば、「加藤楸邨逝く」では草田男が楸邨を戦争協力者として非難していたのだが、第一回松島芭蕉祭がその草田男と楸邨だったこと。
芝不器男の「あなたなる夜雨の葛のあなたかな」が東北帝大に入学したときに詠まれたもの、というふうに、著者の郷土を軸にしていることで、密度を得ていて惹きこまれる内容になっている。