‘他誌からの転載’ カテゴリーのアーカイブ

一切皆空もくもくと毛虫ゆく   岩淵喜代子

2017年1月27日 金曜日

『郭公』二月号 俳壇の今    筆者・山上薫

(「俳句」12月号『子規忌』より)
一切皆空。あらゅる現象や存在は実体がなく空である。むずかしい仏教用語も這い進む毛虫には関係のないこと。国際政治とも、金融政策とも、テロリズムとも、難民とも、そして、我が家の買い物リストとも、何の係わりもなく毛虫はゆく。

この融通無碍さはどうだ。毛虫よ、何をどうすればお前のようにもくもくできるのかね。毛虫が答える。わからないよ、おれはただもくもくしているだけだから。もくもくと働くもくもくじゃない。もくもくと煙の立ち昇るもくもくじゃない。ただ、もくもく。俳諧味。ああ、それを言っちゃおしまいだ。もくもくすることだけがもくもくなんだから。もくもくと。ゅく。ゆく。ね。

ににん 秋号 通巻六四号 季刊

2017年1月24日 火曜日

『好日』 2月号より、俳誌月評  筆者・須田眞里子

代表 岩淵喜代子。平成一二年岩淵喜代子が埼玉県で創刊。発行所朝霞市。「同人誌の気概」ということを追求している。

岩淵喜代子作品「余韻の水母」より
一碗の重湯水母のおもさあり
生涯は水母のごとく無口なり

ににん集
我が書架の有限なるや春の塵    木佐梨乃
星の夜の書架万物に見透かされ   木津直人
こほろぎの潜みし書架や方丈記   栗原良子
秘の文書しまふ地下書庫冷まじや  西方来人
書架奥のチャタレイ夫人火取虫   鈴木まさゑ

さざん集
抽斗に釦いつぱい盆の月      尾崎淳子
3Dメロンの網の小宇宙      鬼武孝江
くすり飲む時間となりぬ酔芙蓉   川村研治
揺れ戻す揺れ戻しては吾亦紅    兄部千達
輪郭の鯰となつて泥動く      高橋寛治
遠雷や古木の卓の台湾茶      谷原恵理子
先へ先へ影飛んでいく秋の蝶    浜田はるみ

木佐梨乃氏「英語版奥の細道を読む」、
高橋寛治氏「定型詩の不思議」、
正津勉氏「落丁愚伝」。
秀句鑑賞は岩淵喜代子代表
「ににん反芻」、浜田はるみ氏「十七音の宇宙」。

巻末の「雁の玉章」は、岩淵喜代子代表を含む四氏の個性豊かなエツセイ集である。

一日ただ子規忌に凭れゐたりけり    岩淵喜代子

2017年1月24日 火曜日

『天衣』2月号 現代俳句鑑賞
筆者・古田雅通

『俳句』十二月号(子規忌より)子規の忌日は九月十九日。子規は俳諧革新運動の中心となり、江戸期までの俳諧の発句を明治期に俳句として独立させた。日本の文学史上画期的な革新であった。それだけに子規忌は俳人にとって特別な日である。

「子規忌に凭れゐたりけり」との比喩表現により、子規忌があたかも堅固な柱のような存在として立ち現れる。作者はこの日、俳句の礎を築いた子規への思いを深め、俳句の原点を見つめたのであろう。「一日ただ」「ゐたりけり」との措辞からは、子規への敬意の深さが伝わってくる。
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『松の花』2月号 現代俳句管見
総合俳誌より    筆者・平田雄公子

白露の候、今年は敬老の日でもあった9月19日の、「子規忌」。没後百十余年の大先達に、「凭れ」る許り。

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『俳壇』2月号 俳句月評・12月号の作品  筆者・高橋博夫

(「俳句」12月号子規忌」21句より
正岡子規が三十四歳で亡くなったのは明治三十五年九月十九日。ときに病床での痛みに耐えかねて「号泣」した、その亡骸の傾きをなおすために肩に手をかけた母・八重は「サア、も一遍痛いというてお見」と強い調子で語りかけ、落涙したという。

彼の多方面の文芸上の業績は、若き日の喀血以降に短命を意識したことときりはなせない。「凭れる」には、そうした子規に寄せる親身な追慕がかよう。

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『獅林』2017年2月号 総合誌の秀句鑑賞   筆者・森 一心

『俳句』12月号 特別作品21句「子規忌」より
「子規忌」は、正岡子規の期日、9月19日。獺祭気、糸瓜気ともいう。子規は今更いうまでもないが、名は正岡常規。俳人・歌人で、我々が今日俳句を学べるのは、すべて子規が作り上げた道を歩けるからである。

別号は獺祭書屋主人、竹の里人。伊予(愛媛県)生まれ。日本新聞社に入り記者となる。俳諧を研究、雑誌「ホトトギス」に拠って写生俳句を首唱した。作者は、この日、一日中、子規のことのみ思い続け「凭れ」切ったのである。

海月また骨を探してただよへり   岩淵喜代子

2017年1月24日 火曜日

『岳』2016年12月 展望現代俳句』より  筆者・佐藤映二

「ににん」秋号より。「余韻の水母」と題して、23句すべて水母の季語を配した意欲に惹かれる。〈骨を探して〉から、どうしても東日本大震災の大津波に遭難した幾多の人を想起する。

5年半経った今でも、行方不明者の捜索が節目ごとに実行されている。無力感に幾度も押しつぶされながら、その片鱗もとの願いに寄り添う気持ちが(また)の措辞によって表されている。同時作「忘れよと水母の海に手を濡らす」も、今は何事もなかったかのような海に手を浸すことで、却って忘れ得ない現実に引きもどされる哀しさを表しているのである。

「澤」主宰・小澤實 2016年10月号より 

2016年10月5日 水曜日

窓 俳句結社誌を読む    筆者・馬場尚美

「ににん」2016年 夏号 vol 63号
「ににん」は平成十二年秋、埼玉県朝霞市にて岩淵喜代子が創刊。「同人誌の気概」ということを追求していきたいとある。師系は原裕。季刊。

まひまひやおのが輪脱げぬまひまひや   正津 勉
なめくじは負う家も無しなめくじは

正津勉氏の書き下ろし「一切合財煙也」二十句より。見開きに並ぶ二十句は五句一束の構成。一束ごとに世界が創られており、七五調の音数律を抜け出した自由律の言葉が、すとんすとんと降りてきて、五七五に収まっているような風情。言葉たちにお帰りなさいと声をかけたくなる。

まひまひの句はなんと詠嘆の「や」が上五と下五に置かれており、俳句の定型としては驚きであるが、中七の「輪」を中心にぐるぐる回っているのだと合点した。終わりのないぐるぐる。なめくじの方は、のったりと進んで「は」の後はどこへ進むのかなめくじにもわからないのだ。

負うた殻を脱げない哀しみと身ひとつのやるせなさ、と私は人間の視点で読みつつ、かたつむりやなめくじから見た人間はどれほどの生き物なのだろう、と想像していた。そうか、視点遊びのおもしろさ。視点を変えれば「一切合財煙也」か、と考えさせるところが詩人の力である。

凡人のあとさきに降る桜蕊      川村研治
十薬を煎じ凡人生き延ぶや      栗原良子
凡人や手持無沙汰の金魚飼ふ     浅見 百

兼題「凡人」である。難しい題だと思った。日々を凡々と暮らしている私に、「これぞ凡人」という句を作れるものだろうかと思いつつ、五十名近い俳人の「凡人」の句を読んだ。それよりまず三句。

一句日、「あとさき」が巧い。天は凡人の上にも奇人の上にも桜蕊を降らす、とちょっと聖旬めいた慈しみを感じさせる「あとさき」だ。花吹雪ではなく桜蕊であるところがつつましい。
二句目の十薬を煎じるというのも、健康に気遣う凡人の行為として実にまっとうで、愛すべきではないか。人様の迷惑にならないようにぴんぴんころりを願う。

三句日、この金魚は夜店で釣ってしまったにちがいない。凡人が手持無沙汰に飼うわけだから、高級な銘柄金魚ではないと想像がつく。「凡人や」という詠嘆もなんというか、知らず知らずに息を漏らしてしまったような滑稽味がある。と、アイロニーを微かに漂わせる三句三様の愛しき凡人に、いたく親近感が湧いたのであった。

凡人に数へきれない落椿       岩淵喜代子

とても凡人とは思えないシーンに佇む凡人だが、そう感じることこそ凡である、ということか。数えきれない落椿が敷き詰められた舞台に立たせることで、作者はひとりの凡人の中のうかがい知れない非凡を浮かび上がらせているのだ。畢寛、人はひとりぞ、という普遍的な寂しさも感じさせる。

葱嶺の頂自麓青清水汲む      木佐梨乃

パミールはベルシャ語で「世界の屋根」という意味。そして中国語では葱嶺と呼ばれている中央アジアの高原。葱嶺とは、実際にこの地方に何百種という野生の葱が存在していることから名づけられたらしい。

仏教を葱嶺教というのは、釈迦が修行を行った地であるからという。そしてシルクロードの重要なルートでもあった。なんとも時空を超えて雄大な句だ。湧き流れる清水を汲む隊商のさざめきが聞こえてきそうだ。

ボート遊び中々岸に着かぬなり    兄部千達

溌刺と漕ぎ出したはいいけれど、ボートは慣れない人にとってはしんどい。そして倦みはじめてからが長いものだ。カップルで楽しんでいても漕ぐのに疲れて、だんだん無口に。とにかく岸に早く着きたいと願うが岸は遠い。「中々」に川か池の中ほどで、往生している心持がよくわかる。

くらげ生む地球と月の回転で     浜岡紀子

江の島水族館で大きな水槽に漂うくらげを見たときは、その神々しさに圧倒された。くらげは宇宙を感じさせるのだ。作者はその感覚を地球と月の回転が生む、というファンタジーにして見せてくれた。

アトリエを覗いてをりぬ羽抜鶏    宮本郁江
早熟の毛深き桃の手いれ時      伊丹竹野子

レトロな洋風建築のアトリエを、羽抜鶏が首を伸ばして覗いている。句自体が画材になりそうで楽しい一句目。そして毛深い桃とは、と一瞬とまどわせる二句目。どういう手入れをするのだろうと毛深い桃の映像があとを引く。

貼り交ぜる切手とりどり巣立鳥   岩淵喜代子

2016年9月1日 木曜日

『沖』9月号 主宰・能村研三

現代秀句鑑賞   筆者・東 良子

俳壇 六月号巻頭作品「鳥の恋」より
タイトルの「鳥の恋」10句には、上掲句の他に、極く身近な小鳥が詠われている。(雀らに芝生がいちばん暖かさう〉(子雀に隠れどころもなき芝生〉がある。

雀といえば、最近は数が減ったと言われる。町には田畑が姿を消し、日舎の田圃でも、機械化されて稲架も落穂拾いの光景も見かけなくなってしまった(そんな中で見かける雀は、今や懐かしく嬉しくなる存在である。「貼り交ぜる切手とりどり」とは、手許にある、昔、沢山蒐集した切手のことであろう。

とりどりの美しい切手を沢山貼って送る、ゆうパック等であろうか。「巣立鳥」があたかも、沢山の切手を貼つて貰つて、今まさに大空に向かって、飛び立つ処。そんなメルヘンチツクな、楽 しい景が思われた。作者は本年、第29回俳人協会評論賞を受賞された。

綾取りの橋を手渡す鳥の恋   岩淵喜代子

2016年8月13日 土曜日

『斧』主宰・はりまだいすけ

現代俳句評  筆者・大久保和恵

『俳壇』鳥の恋 より
綾取りも毬突きも見かけなくなった。綾取りよりもスマホのゲーム、毬突きよリサッカーだろうか。男女の差がなくなっていると言える。

それが悪いとは一概には言えないのだが、遊びに情緒がなくなっているのは確かである。 さてこの句、「手渡す」とは何と優しい表現であろうか。

しかし、綾取りとはまさに指で作った糸の橋や川を「手渡す」ことである。この措辞によって嫋やかな空間―女の子達が醸し出す香やとりどりの色彩―が眼前に現れ、囀りの空の下で流れて行く幸せな時を共有している童たちの静かな息遣いが聞こえてくる。

高枝の暗きところが小鳥の巣   岩淵喜代子

2016年8月7日 日曜日

『天為』 8月号  主宰・有馬朗人

現代俳句鑑賞   筆者・丸谷三砂

(「俳壇」ハ月号「鳥の恋」より)
繁殖のための鳥の巣は、地中、樹上、岩棚、木の洞など作る場所にもいくつかのタイプがある。その素材も泥や小石、羽毛や獣毛、枯葉や樹皮など鳥によってさまざまである。

掲句の小鳥の巣は樹上の高いところにある。おそらく木の股などに枯葉や小枝などで作られたものであろう。葉の茂っている季節にはなかなか見定めることが困難なのが鳥の巣である。敵から身を守るためには目立たないように巣作りをするのが鳥の習性でもあろう。

葉陰に見え隠れしてどこか輪郭の定まらない小鳥の巣を「暗きところ」よ表現して成功している。

貼り交ぜる切手とりどり巣立鳥    岩淵喜代子

2016年8月6日 土曜日

俳誌「月の匣」 主宰・水内慶太

詩海展望    筆者・田中喜翔

「俳壇」六月号) 俳人と郵便の係わりは深い。毎日俳句や文章を書いては出し、来たものを受け取り郵便に追い立てられながら仕事をしているのだが郵便物は規格や重量厚さによって料金が決つているので例えば一四〇円の場合は一〇〇円と三十円十円の切手を貼り交ぜることになる。

掲句の場合、意味は異なるが「とり」の語が三回繰り返されとてもリズミカルだ。巣立鳥のように手元を離れてゆくのはきっと佳信であろう。ちなみに鳥の図柄の切手は十円と一部の八十二円。

『紫』八月号   主宰・山崎十生

2016年8月6日 土曜日

俳誌紹介   筆者・久下晴美

◎俳誌「ににん」春号(季刊 通巻六二号)
○代表=岩淵喜代子 編集人=川村研治
○発行所=朝霞市溝沼五‐一下上四
*平成十二年秋、岩淵喜代子が朝霞市で創刊。師系は原裕。「同人誌の気概一ということを追及している。主宰は置かず、季刊誌として四月・七月。十月。一月の年四回発行。投句者全員が同人で、昨年秋に通巻六十号、創刊十五周年を迎えた。同人作品は「ににん集」と「さざん集」から成り、各五句ずつ掲載。巻末綴じ込みのエッセイ集「雁の玉章(かりのたまずさとは十七号となり、六名が執筆。

◇ににん集より(兼題…受信)
松過ぎの岬へ運ぶ受信音          岩淵喜代子
大欅ただ今春を受信中          大豆生田伴子
ふたたびの世に寒北斗受信せよ       武丼 伸子

◇さざん集より
風花や発掘されし柱穴           川村 研治
へうきんな冬雲ふはりひよこ色       高橋 寛治
行列の影が影踏む春隣           服部さやか

*巻頭には山内美代子句画集「藤が丘から」・浜田はるみ句集「韻く」の出版祝賀会と書評を十三頁にわたり載せている。岩淵氏は〈石鼎余滴〉として原石鼎の評伝を四頁執筆。

*余談だが「ににん」のウェブサイトも充実している。〈喜代子の折々〉は代表の日常が綴られており素顔が垣間見えて興味深い。

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