一句の世界は(油のごとく)の一語に収斂していく。砥石の上に水を乗せて刃物を研いでいると、砥石と刃物の間の水が砥石から溢れるのだろう。それが、まるで油のようになめらかに、静かに地面を落ちる。作者の凝視がその水に注がれて動かない。
和田順子第五句集 2015年 角川書店
2015年8月19日 のアーカイブ
油のごとく研屋の使ふ秋の水 和田順子
2015年8月19日 水曜日あをあをと音なく流れ初御空 大石香代子
2015年8月19日 水曜日晴れていれば空はいつでも青いだろう。しかし、今日が初御空だと思う心で空を見上げれば、空はただ青いだけではなく滔々と流れているのである。(夕映の刈株に寄るうすぼこり)(種犇めける鶏頭の首ねつこ)など、本質を捉えようとする視線を感じる。
大石香代子第三句集『鳥風』 2015年 ふらんす堂
後ずさりして見る実梅あるわあるわ 能村研三
2015年8月19日 水曜日実のなり初めは樹木の葉の色に紛れていて、見ようとしないものには姿を現さない。
それがひとたび実が成っていることを認識すると、個々の青い実がみんな形を表わしてくる。さらによく見ようと後ろに下がって、一木を視野におさめてみれば隅から隅まで青梅が姿を表わせて思わず(あるわあるわ)と感嘆の声が出てしまったのだろう。
ほかにも、(一軒のための踏切雁わたし)(青竹を伐らずにをりし祭まで)など、日常雑記的な風景を詩情濃く俳句にしている。
能村研三第七句集『催花の雷』 2015年 (株)KADOKAWA