掲出句はなめくぢの色を見つめることで、その本意を差し出している。なめくぢの色に目をとめ、その色の殊になめくじらしい一瞬をとらえたのが、この一句である。天空にある月、そうして地上にあるなめくぢ、それだけの構図が灯るの一語で結び付けられて魅力的。
あをぞらをしづかにながす冬木かな
牛ねむり馬のねむりに氷柱育つ
花の上に押し寄せてゐる夜空かな
水尾の端遅日の岸に届きけり
古書買うてわづかな雪を帰りけり
給料日桜に街の灯が映り
たんぽぽの絮をこはさず雨のふる
村上鞆彦第一句集『遅日の岸』 2015年 ふらんす堂 岩淵喜代子記