栞文 草深昌子
泥葱をま白に剝けば千空忌
岩木嶺は眠る火の山千空忌
成田千空を師とする出会いから出発した俳句の根源が、千空忌を詠む句に顕れている。栞で草深昌子さんが――「剝けばま白」ではない、「ま白に剝けば」である。凡俗に見えてあるものの中から非凡の白を引き出して見せた――と解説にも指摘されている葱の句。
この切り込み方が藤埜まさ志の俳句表現の要にあるのだ。俳句はただ事がただ事でなくなることに醍醐味を発揮する。
影曳いて入日へゆらり流し雛
馬群れて牛散らばりて大夏野
筒鳥や引きてすぐ寄す湖の波
全体に作者の視線が大景を捉えていることによる悠々感が快い。