昨年出版されたもので、以前書名だけはこの欄で受贈図書一覧の形で紹介しておいた。この一書の大方は「ににん」に発表してたものだが、季刊発行の雑誌の部分的にで読んでいたのでは、希薄のままの印象で終わってしまう。それが、こうしてまとめられたことで完成するものだということをこの一書で改めて感じた。
『今も沖には未来あり』はタイトルの示すとおり、草田男の第一句集「長子」をたどりながら、俳人草田男を辿る根気のいる仕事。その中で、草田男批判を加えながらの筆致が、むしろ内容を濃くしているような気がする。後半へゆくほど文章の歯切れがよくなるのは、たぶん句集「長子」が次第に体に浸透してきたことで、文章が自在に走り出していたのだろう。(2014年度の評論新人賞受賞者)