2013年9月16日 のアーカイブ

有住洋子創刊第一号「白い部屋」  20132年9月

2013年9月16日 月曜日

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白い部屋には大きな窓があります
空が見えます 日が差し込み 風が吹き抜けます
雲の変幻 月の満ち欠けに影が過ります

部屋には何もありません
一冊の雑誌が置かれているほかは
雑誌はときどき発行されます
雨あがりの朝 月の夜 あるいは雪の降る午後に

以上の言葉は見返しに書かれた創刊のことば。

古地図をたどる草蜉蝣に蹤き      有住洋子
白百合の倒れむとして地に触れず
箱庭を置きて一軒たそがるる

そうして編集後記のページにはーー毎日何かを選択しながら、何かを失っていくかもしれないが、その積み重ねが人の価値観になるーーという覚悟のようなものが書かれている。どこにも創刊というようなことばはない。まことに淡々としかも怜悧な空気を感じさせる個人誌である。

長嶺千晶句集『雁の雫』   2013年   文学の森

2013年9月16日 月曜日

昼さがり遠くの水へ落椿
竹秋のまばゆさをふと疎みけり
島影に島影重ね青簾
振り上げし鋏下ろせず蟹と蟹
竹咲くや平家納経銀乾く
眺めやる青田に誰も居らずなり
水音の落ちゆく先へ蛍かな
ごちやごちやと鴨や家鴨や橋の下
緑陰に憩へば旅にあるごとし
人日や老いゆくことを知恵はじめ
揺らぎつつ列を保てり雁の群

まことに端正な作品集である。作品が人格を、あるいは作品が人生を重ねるということなのか。いずれにしても間違いなく作者の視点を書き表したものなのだろう。

岸本尚毅著『高濱虚子の百句』 2013年  ふらんす堂

2013年9月16日 月曜日

きしもと

「取り上げた百句は、二物配合を念頭に置いて抽出したもの」と著者自身が書いている。

一つ根に離れ浮く葉や春の水

取り合わせの句は、ともすると公式に添わせがちで、たぶん句会では座五の水が余分ではないかと論じられるところだが、岸本氏は最後まで水から目を離さない。文字を増やして複雑にしないのだ、と解説して説得力がある。
新書版なので、持ち歩きならが気ままに開ける手軽さがうれしい。

柿本多映句集『仮生』 2013年  現代俳句協会 

2013年9月16日 月曜日

共寝して覗く牡丹のまくらがり
谷蟆の淋しさに蔵ひらきけり
往年は立つたままなり青野原
法華経を知らず蛇のままでゐる
塩壺の塩は減りつつ蝉の穴
このところ芒ヶ原に箱ひとつ
帚木に心音ありと告げにくる
木枯にざらつく姉の身八つ口
もう人に戻らぬ石と芒かな
見も知らぬ昼を歩いて薄氷
傘寿とは輪ゴムが右から左から

ご主人を亡くされたようである。そのことを直裁的に詠んだものはない。間接的にも詠んでいな。柿本多映氏にとって俳句は自身の想念の広場を詠み続けることなのだろう。

澤好摩句集『光源』 2013年  書肆麒麟

2013年9月16日 月曜日

沖に起つ濤のひとつは嘶くも
空蝉に燈の宿りゐる妻籠かな
旅の酒過ごし闇夜が黒牡丹
春闌けてピアノの前に椅子がない
北国の蚊帳吊草に帰りつく
涅槃図を鼠出てゆく初しぐれ
集まつてみな棒立ちや青嵐
杉林雲に晩年あるごとし
うたたねの畳の縁を来る夜汽車
電信柱の軍隊が行く枯野かな

彼岸と此岸の狭間で詠むモノトーンの世界が展開されている。

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