羅の母へ忠七めし奢る 喜代子
季節外れだが、今発売中の十二月増刊号 「全国ふるさと食の歳時記」に載せた句。埼玉県の食を「ににん」も担当したのだが、東京近郊のようなこのあたりはそれほど郷土色を感じる食に恵まれているわけでもない。だが数えれば、川越のさつまいもや熊谷の五家宝、それに小川町の「忠七めし」などはすぐ思いつく。
この「忠七めし」は岐阜県の「さよりめし」・東京の「深川めし」・津和野の「うずめめし」・大阪の「かやくめし」と並ぶ五大名飯なのである。伝統を今も受け継いで紙漉きの小川町の名物。その昔、山岡鉄舟の料理に禅味を盛れとの示唆で工夫されたお茶漬けだとか。海苔を思いっきりまぶしたご飯に、さまざまな薬味とお茶が添えられて出される。
「忠七めし」と名のつくお茶漬けを出すのが割烹旅館二葉。風格のある庭を眺めながらのお見合いなどの席にも利用されることが多いらしい。近くに名物となっている女郎鰻を食べさせるところもあるので、立ち寄るのに迷うところだ。
「ふるさと食歳時記」には「忠七めし」のほかに、以下の川越の「十万石饅頭」・秩父の「おなめ」・「狭山茶」・「芋せんべい」・「すまんじゅう」・「草加せんべい」・「深谷葱」などの句を発表している。
さつまいも洗ふや水を走らせて 望月 遥
流星群近づく戸棚の芋せんべい 尾崎じゅうん木
十万石饅頭食はん台風下 川村研治
夕立の真中にゐてすまんじゅう 武井伸子
深谷葱煮るやひとりの時間濃し 長嶺千晶
五家宝の粉こぼれをり夏つばめ 木津直人
狭山茶の幟のならぶ日和かな 牧野洋子
冷酒と秩父おなめが無二の友 伊丹竹野子
翁忌や草加せんべい焼く匂ひ 上田禎子