大正10年生まれ。『水櫻』『夜叉ヶ池』『天彦』『麻布』『大足神』『天真』『九十九里』『かむろ山』が収録されている。それに加えて、『自註田中水桜集』『自解100句選集』の二冊収録された重厚な全句集である。この11月に主宰していた「さいかち」の千号祝賀会も行われて、俳句人生の充実ぶりを示した一書だと言える。
秋風のうまさよ雲にちかよれば 「水桜」
銀漢や干潟ありけば潮満ち来 「夜叉ヶ池」
天彦や沖へ順風吹き流し 「天彦」
どつぷりと麻布育ちの沖膾 「麻布」
竹の秀の虚空掠めし冬の音 「大足神」
天真の声もて示す桜貝 「天真」
九十九里さいはて模糊と卯波寄す 「九十九里」
さしかはす花の天蓋果て知らず 「かむろ山」
自然の気息というか自然の空気が伝わってくる作品。市井に生きながらも、いつも天空へ視点を投げて、そこから空気を呼び込んでいたような壮大な風景が多かった。まさにますらおの詠んだ俳句である。