朧夜の運河にかかる橋ふたつ
まつさをな巣箱は夢の中にあり
レタスから少し離れて雨の降る
街にゐて街のさくらを見てをりぬ
端居して遠くの夜を見てゐたる
うたた寝の夢より覚めて素足かな
灯台を見てから髪を洗ふ夜
風鈴の音色はきのふよりはるか
手に持ちて葡萄は雨の重さかな
秋風が吹けば聞こゆる海の音
紅葉してゐる誰も居ない家
煮凝は日の暮れてゆく街に似て
極月の川の向うに街のあり
序文の中で今井杏太郎氏が方丈記の書き出しの部分を引用し、それを甘えととるか無常観ととるかという提示をしている。北川あい沙氏は2000年に今井杏太郎氏の「魚座」から俳句をはじめた。一集にはその今井氏のやわらかなリズム、対象に向かう感性の透明感が満ちている。