2015年3月 のアーカイブ

幽閉の日々はるけしや春の雁   泰夕美

2015年3月5日 木曜日

(幽閉の日々)とは自らを振りかえってのことばではない。この言葉そのものが歴史を感じさせる措辞なのである。渡り鳥の中でも伝説を生みやすい雁、それも帰ってゆく雁との取り合わせによって、(幽閉の日々)の内容が物語めくのである。

秦夕美第十六句集『五情』 2015年  ふらんす堂

ぶつかつて音の生まるる春の水   嶌田岳人

2015年3月5日 木曜日

春は季節の気配にことさら耳を傾けるときかもしれない。寒さに凍えていた体が訪れてくる春への気配を自ずと探っているからだ。(ぶつかつて音の生るる)は、ともすれば見過ごしてしまいそうな、さりげない措辞である。しかし、次の(春)の季題によって俄かに雪解水などの活気ある水音が蘇る。

嶌田岳人第一句集『メランジュ』2015年 東京四季出版   序  河内静魚  跋 深沢暁子

火の記憶鉄の記憶や蜥蜴生る   畠 梅乃

2015年3月4日 水曜日

原初、火を使うという事は何にも勝る文明だったに違いない。そうして、この後に鉄の記憶と繋がることで一気に古代へ読み手を誘う。蜥蜴はまさに古生代の生き物として目の前に差し出された。この骨太の知的な構成とは別に(立春やからだの中の海の音)のような繊細な世界も詠んでいる。どちらの世界も歯切れのいい文体で纏められている。

畠 梅乃第一句集『血脈』 2014年 文学の森  序文。長嶋衣伊子

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