2014年4月5日 のアーカイブ

星野高士句集『残響』 2014年  深夜叢書

2014年4月5日 土曜日

『破魔矢』『谷戸』『無尽蔵』『顔』に続く第五句集。

雪折の音に眩しさありにけり
凍鶴の一歩は永遠の歩みなり
冬めくや知る人もなき蝶の息
大根を引いて何かが遠ざかる
二の酉の夜空に星の混んでをり
麦秋の空に鴉の通る道

音が眩しいと言い切るとき。、凍鶴の一歩が永遠だとする切り込み方に。
3句目の(蝶の息)の提示、4句目の大根を抜いた感覚が(何かが遠ざかる)としながらムードに陥らない実在感。
5句目の(混んでをり)というネガテイブな言葉遣いであるにもかかわらずポジテイブな風景に反転している技の冴え。。
麦秋の鴉が空を飛ぶ光景に加えた(通る道)による虚実皮膜の風景。
多彩な抽斗を持つ作家だと思った。そうして、句集全体を貫く「明快さ」が快く響いてくる。それは、別の言葉に置き換えれば星野氏の得た諧謔なのだろう。

岸本尚毅句集『小』 2014年  角川学芸出版

2014年4月5日 土曜日

猫のごとく色さまざまな浅利かな
夏楽し蟻の頭を蟻が踏み
目のふちに水の来てゐる秋の蛇
湯たんぽの重たく音もなかりけり
一つかみ虚空に豆を打ちにけり
うす暗く花粉の多き春なりし
紫陽花と百合向ひ合ふ月夜かな
涼しさや水の中なる鯉に雨
草摘のスカート草にのつてをり

俳句という表現方法を信じて貫いている、と感じさせる作家である。
それは、何が?と思わせる日常の茶飯事を輝かせて提示しているからである。
浅利からの猫の連想、蟻が蟻の頭を踏むという拡大された風景、水の中の蛇の提示、湯たんぽの存在感などなど、じんわりと納得しながら読み進む句集だった。
なかでも、(ひとつかみ虚空に豆を打ちにけり)の深遠な空気に惹かれた。

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