2013年3月6日 のアーカイブ

飯野きよ子第三句集『花幹』 2013年2月 角川書店

2013年3月6日 水曜日

星とんでからだの中に島一つ
春愁の麒麟が空を舐めてをる
春の猫闇の四隅に髭触れて
障子貼るくわりんの一つ在るうちに
草束ね置く八月の父の椅子
しもつけの闇がおほきな蛍籠

風土を身体感覚で受け止めた誠実な作風。一句目の星の宇宙と我が体内の宇宙が重層的にひろがる。二句目の(空を舐める)も納得できる。

永瀬十悟句集『朧橋ーーふくしま記』 2013年 コールサック社

2013年3月6日 水曜日

雁風呂と名付けて六日振りの風呂
流されてもうまいはずの橋朧
春愁か怒りかマスクするばかり
牡丹園瓦礫置場となつてをり
月の道ひとりのときは跳ねもして
軒の雪まだ引つ掛かる力あり

「ふくしま」50句で角川俳句賞を受賞した作者の第一句集。時節柄も加えて話題になった俳人である。どの一句を取り上げてもいいように、どれもが破綻なく誠実に読み上げていて、好感をもつ作風である。

田口紅子『土雛』 2013年2月 ふらんす堂

2013年3月6日 水曜日

栞 村上護

水面より空のはじまる大旦
白鷺の水をはなれず牧水忌
ぽつかりと花の奈落となりし谷
ぶつかりあひて鶏頭の赤くなる
枯るるもの葦原に音生みにけり
どかどかと来てなまはげのどかと去る

筆太の写生、その写生も確かな感覚の裏づけから得られているので、読み手の共感を二重に得るのだろう。

斉田 仁句集『異熟』 2013年2月  西田書店

2013年3月6日 水曜日

長梅雨のフランス座から大男
黒南風の部屋のしずかな爆撃機
とうぐわんのとろとろ煮える父の死後
俎の裏も俎秋の暮
カフカより猫背となりて枯野行く
紙袋の鯛焼すこし湿りたる
冬蝶と息子がたまに訪ねてくる

句集名『異熟』とは作者自らのあとがきの弁がある。30年ほどまえに未熟な句集を出した。それで今回の句集を『異熟』としたと。仏教用語である。句集名は作者の含羞が命名させたものだろう。筆太の輪郭を為す言葉が、その言葉の発揮するメージを重ねて深閑とした風景を切り取っている。

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