2012年6月18日 のアーカイブ

『山彦』2012年7・8月号 主宰河村正浩   

2012年6月18日 月曜日

愛贈誌紹介     筆者 河村正浩

○句集「白雁」(角川書店刊)  岩淵喜代子(「ににん」代表)の第五句集。
  
  今生の螢は声を持たざりし
  風呂吹を風の色ともおもひをり
  尾があれば尾も揺れをらむ半仙戯
  もの種の指にざらざら孫生まれ
  幻をかたちにすれば白魚に

 自由奔放に俳句を満喫している。それにしても沈潜としたこの抒情には不思議な感覚を覚える。それは洞察力の素晴しさでもあるが、季語が象徴的に扱われているだけに、読者にはそれらの何かを探り出すという愉しみがある。

  蟻地獄どこかで子供泣いてゐる
  天へ地へ道はつづきぬ葛の花
  山茶花や柩に釘を打だなくても
  鉄鍋の中の暗闇義士祭
  春の闇鬼は手の鳴るはうに来る

 切れの効果故か、その沈潜とした気息は平明ながら深みを帯びてくる。

  万の鳥帰り一羽の白雁も

 句集名となった句。万の鳥の中の一羽、それを詠む作者もまた一人。
  「あとがき」で。”書くことは「生きざま」を書き残すことだと錯覚してしまいそうですが、等身大の自分の後追いをしても仕方がありません。句集作りは、今の自分を抜け出すための手段のような気もしてきました”と。そして、”自分を変へる旅をしたいと切に思っています。言い換えれば「憧れ」を追う旅とも言えます”と。新しい旅立ちは始まる。

俳誌『十七音樹』24号  代表平沢陽子

2012年6月18日 月曜日

鑑賞 ――現代俳句月評     筆者 長井 寛

地獄とは柘榴の中のやうなもの  (俳句11月号より)  岩淵喜代子

あまたある地獄絵のなかでも丸木美術館の丸木俊・ひさ子夫妻が描いた絵は一際印象深い。原爆投下直後のその惨憺たるはさながら阿鼻叫喚の地獄絵の如、一度見た人の脳裏を離れない。火炙りになって逃げ惑う人の群れはあたかも熟れきった「柘榴の中のやうなもの」であると詠み放射能漏れの大惨事に強い警告を発している。

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