2012年6月1日 のアーカイブ

森田智子句集第四句集『定景』  2012年 邑書林

2012年6月1日 金曜日

昭和13年生、「樫」代表。

深吉野の春いせいに米を研ぐ
腹帯を授かりしあと象を見に
石臼を回しておれば蓮枯れる
鴨鍋にむかってきたる巨き船
木枯しの吹いて赤子に歯が二本
命日というが加わり初暦
宿題の無くて西瓜を切ってくる
春の雲付箋一枚ついてくる
長月の等身大のポスト立つ

 すみずみまで俳味を醸し出している一集である。俳味は例えば「深吉野の」のように何気ない日常の切り取り方に。また「腹帯を」「鴨鍋」のような取り合わせの意外性に。さらに、一筆書きのような鮮明な映像となる「石臼を」「長月の」のような句。就中「春の雲付箋一枚ついてくる」には上記の要素のすべてがある。

金子敦第四句集『乗船券』 2012年 ふらんす堂

2012年6月1日 金曜日

1959年生れ。結社「出航」所属。

 一集は、きわめて透明な世界が掬い取られている。というよりは金子氏が掬い取る風景は透明になる、と言ったほうが正確である。平明なことばで紡がれている作品群は、明るい淡彩画を想わせる心地よい風景である。それは作者の現在身を置いている環境への賛辞でもあるのではないかと思った。

囀りやくるりくるりと試し書き
すぐそこに春の海見ゆオムライス
少しづつ粘土が象になる日永
待たされてたんぽぽの絮吹いてをり
月の舟の乗船券を渡さるる
仏壇に白桃ひとつ灯りけり
月光がピアノの蓋を開けたがる
それはもう大きな栗のモンブラン

次の四句は句集巻末に近いあたりの見開きの四句。いずれもが喧騒が静寂に反転したあたりの空気を捉えている。このあたりに金子氏の透明になる視点の秘密がありそうである。

冬ざれやペットボトルの凹凸も
ガードレールに凭れてゐたる焼薯屋
影踏みの子のゐなくなる返り花
とほき日のさらに遠くに冬夕焼

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