昭和13年生、「樫」代表。
深吉野の春いせいに米を研ぐ
腹帯を授かりしあと象を見に
石臼を回しておれば蓮枯れる
鴨鍋にむかってきたる巨き船
木枯しの吹いて赤子に歯が二本
命日というが加わり初暦
宿題の無くて西瓜を切ってくる
春の雲付箋一枚ついてくる
長月の等身大のポスト立つ
すみずみまで俳味を醸し出している一集である。俳味は例えば「深吉野の」のように何気ない日常の切り取り方に。また「腹帯を」「鴨鍋」のような取り合わせの意外性に。さらに、一筆書きのような鮮明な映像となる「石臼を」「長月の」のような句。就中「春の雲付箋一枚ついてくる」には上記の要素のすべてがある。