『貂』代表・星野恒彦 2016年4月号

画と俳句   筆者・星野恒彦

先頃『藤が丘から』と題する大版の本を贈られた。墨彩画と俳句から成り、著者は山内美代子。「紹」の初期に在籍していたが、墨絵に打ちこんでいる人の印象が強かった。
「墨絵を始めて間もない頃、季節感を忘れないようにと師より一言があった」ので、俳句にも手をそめたいきさつを「あとがき」に記している。添えられたエッセイに、興味深い一節があり、以下に再録する。

先日、画家。中川一政の随筆集『画にもかけない』を読んでいたら次のような文章があった。

「けさ新聞の俳句欄をみていたら
ストーヴの真赤な焔精神科

と云う句が目についた。このストーヴの火は原色の赤である。而もこの原色の赤がきいている。画でこれ程鮮明な生かし方が出来たら練達の士というべきだろう。
俳人達は勉強していて、句をつくっているつもりで画かきよりも写生をしている。

他所者は去りゆく焚火おとろへて
 差しのべし火にのけぞりて毛虫落つ   (中略)
これらは文字で画を書いているのだ。こういう観察眼があれば絵は描けると思う。(後略)」

画家の眼の鋭さに感心した。俳句という文字で描いた 画は、何枚も現実の画となってこの画家の眼には見える のではなかろうか。彼の眼力には到底およばないが、同 じような眼で句を見直してみた。しかも赤い色のおよぼ す効果を意識したと思われる句が数多く見うけられた。

ドラム缶真赤五月の岩壁に      新渡戸流木
喰べる苺よりも真赤に蛇苺      瀧  春一
舞初のまなじりの朱に灯りたる    田村 稲青
風車赤し五重塔赤し         川端 茅舎
新涼に雲丹の丹を塗る朝御飯     川崎 展宏
軒下に古釘ちれり赤とんぼ      星野 恒彦
滲みでてくる鶏頭の中の闇      岩淵喜代子

赤い色のさわやかさ。暗さ。明るさ。強さ。変化に富 んだこの色の奥行の深さをこれからも探ってみたい。

石楠花の蕾をごにょごにょとした線で描きたい弟子に、 即座に線描によるデフォルメで応じた墨絵の先生は、「中 気になったつもりで線を描いてみよ」とアドバイスしたそ うだ。それを「惚けたつもりで作句してみよ」と私は読み 替えてハットした。山内さんの絵てがみの豊かで伸びやか な滋味を愉しみつつ、まことに画と俳句はシスターアーツ で、たゆまぬ工夫と努力が必要なのだと痛感した。

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