これまでの作品から『金風』という括りで一集にしているが、最新句集とそれ以後に重心をおいた編纂になっている。
ものの芽のなにか分からぬ小ささよ 「早椿」昭和48年
金風や傘寿となりて分かること 平成22年
八十歳まで俳句を続けていられれば、もう脱皮から脱皮を繰り返して、黄金の蝶になっているのではないだろうか。黄金の蝶は、その存在そのものだけで美しい。舞い方とか、色合いとかそんなことを考えなくても在ることが美しいのではないだろうか。そんなことを思わせる一句である。「傘寿となりて分かること」という一語の奥行きを想う。否、想わせる俳句である。
蝶々に大きく門の開いてをり 昭和51年
母と手を振り別れたる月の窓 昭和54年
松蝉に夕風揃ひはじめけり 平成10年
あの辺が小諸と思ふ冬日かな 平成11年
綿虫の舞つて手を振る別れかな 平成18年
船上に花火見てゐるこんな日も 平成22年