日常をどのように表現するか、俳句形式にとってそれが大きな課題である。鳴戸氏の詠み方は何でもない日常、誰もが見えているごく当たり前の風景を作者の言葉で鮮やかに浮かび上がらせる。
冬うらら隣の墓が寄りかかる
啓蟄のまなこが蟻を拾いけり
春の池泳げぬ魚いるはずよ
蛇の舌見えるか蛇口という言葉
十二月鏡が見ている家の中
薄氷ときに厚しや世の情け
お花見の手足はいつもいっしょなり
生きている人がたくさん初詣
月蝕の夜は街角を船がゆく
空蝉の鳴く声母のいない部屋
金魚玉落ちて金魚が踊りけり