詩集が十七編、句集が1993年以降四編という精力的な作品制作過程がある中の第四句集目。
この句集には三つのキイポイントがあるように思われる。それは月と60年と江戸である。この三つのキーが頁を繰るごとに立ちあがって、おのずとイメージを立ち上がる、月光という媒介によって江戸と現代が結ばれている。プロフールが無いので、想像なのだが、60年は作者の生きて来た年月なのかと想像している。
月を見て六十年の明るさよ
六十年そこに蟲籠置く手ある
六十年前のいへから蠅逃す
六十年前の西日すこし動く
裏木戸に人一人出す天の川
名月や知恵の輪はづれ裏戸あく
去にしあと月宮殿となる廓
名月のかさなりあうてゐるやうな
江戸は春お化け煙突美女四人
秋冷や釘は打たれてをりにけり
われのほかゆきどころなし桃の種
花の晝江戸もヴェニスも舟は反り