黒揚羽地下水脈を慕ひをる
精力的に作家論を紡いでいる書き手としての分野でも知名度をもった作家である。
そうした論者の俳句でもある。それが表題にした「地下水脈」の句にも濃く表れている。ときをり地面にたくさんの蝶が張り付いていることがある。水面ではなくただ周囲よりは湿りのあるような地上にである。地下水脈、そういう措辞によって黒揚羽の輪郭が引き出されるだけではなく不思議な立体感が現れる。それは作者の希求の表れでもあるのだろう。後半にいくほど言葉が自在になっている。
はんざきの尾は常闇に垂れてをり
絵タイルの船をつつけり初雀
穴まどひ尾に波音を曳きにけり
落椿大地波打つことのあり
蔦紅葉百夜通ひのやつれとや
一塊の闇はふくろふ発ちにけり