『若竹』2012年10月号 主宰・加古宗也

一句の風景   筆者江川貞代

椎匂ふ椎の闇より闇を見る    岩淵喜代子 「俳壇」六月号より

 椎の花は青臭い強烈な匂いがする。女であれば女を、男であれば男を意識してしまう一種独特な匂いともいえる。
 作者は椎の大木の「闇」の中に立っている。むんむんと花の匂いの重く淀んだ空間は、現実の「闇」である。そこから別次元の「闇」を見る。岩淵氏は「俳句の俳とは、非日常です。日常の中で、もうひとつの日常を作ることです。」と述べられているが、この別次元の「闇」は作者自信が作り出した非日常のものだろう。それは作者の心象風景か、あるいは性の深淵か、それとももっと根元的な人間の罪業のようなものか。作者は瞬きもせず、その「闇」を見据えている。上五の「椎匂ふ」の措辞が、両方の「闇」に照応し、その重層性が句に深い奥行きを与えている。

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