『遊牧』2012年10月号 主宰・塩野谷 仁

好句を探る   筆者 板間恒子

 次郎より太郎がさびし桐の花    岩淵喜代子

岩淵喜代子句集「白雁」より。
太郎・次郎と言えばすぐ三好達治の詩が浮かぶ。

 大郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
  次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。(雪)

 この場合の太郎・次郎は、日本のごくありふれた伝来の名前である。太郎の家にも、次郎の家にも音もなく雪が降り積もる。民話風でノスタルジーに溢れている。
 掲向の太郎・次郎も子どもの代名詞だが、「より」という助詞によって二人の間には格付けがある。太郎は農家の長男・次郎は次男三男。「家」制度において土地を独占的に相続する太郎。土地から切り離される次郎。しかし「家」制度の崩壊、農村社会の崩壊によって二人の場は逆転したと言えそうだ。家と近代的自我との葛藤に苦しむ太郎。太郎の心象は淡紫の美しい「桐の花」によって際だつ。桐は成長の早い木、材は軽く狂いが少ない木として古くから植栽されてきた。「さびし」という平仮名表記、「び」という濁音も含めて幽かに響く音。太郎・次郎という平凡な二語で今を表現した。

コメント / トラックバック2件

  1. あおやぎかほる より:

    はじめまして
    坂間恒子先生の本からこちらへうかがいました。
    次男より長男さびし桐の花

    年齢を重ねられ、
    やはり こどもさんを思う親御さんのお気持ち
    あたたかみを感じます。
    俳句初心者で なかなか 表現できないこと
    多い身ですけれど
    一文字 一言葉を大事に読み返し
    相手の気持ちがわかるよう
    努力したいと思います。

  2. 岩淵喜代子 より:

    あおやぎ様
    お立ちよりくださいましてありがとうございました。

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