春月2012年10月号  主宰・戸恒東人

句集の泉    筆者 長谷川耿人

岩淵喜代子句集『白雁』

 昭和十一年、東京生まれ。昭和五十一年、「鹿火屋」入会。原俗に師事。のち、川崎展宏の「招」創刊に参加。平成十二年、「ににん」創刊、代表となる。著書に、句集『朝の椅子』『螢袋に灯をともす』『硝子の仲間』『嘘のやう影のやう』、評伝『頂上の石鼎』など多数。 現在、「ににん」代表。俳人協会会員、現代俳句協会会員、国際俳句交流協会会員、日本文蓼家協会会員、日本ペンクラブ会員。平成十三年に句集『螢袋に灯をともす』で第一回俳句四季大賞、平成二十二年には評伝『頂上の石鼎』で第四十一回埼玉文芸賞を受賞。埼玉県朝霞市に在住。

 句集『白雁』は著者の第五句集であり、三百八句を収める。 あとがきに、句集名は

  万の鳥帰り一羽の白雁も
 の句から採用しました、と記してある。
  茎立や壁新聞の重ね張り

 フェルトペンに手書きで発行を続けた被災地石巻の新聞社を思い出した。厚くなった壁新聞に、読者と記者のつながりの深さを感じてしまう。

  ががんぼの打つ戸を開けてやりにけり

 心優しい著者である。風の強い日にはどうしているのだろう…と考えているかもしれない。自然界の多様性には分からないことばかりだが、人間に生まれたからには、すべての生きものに優しくしたいものだ。

  ふところに入らぬものに仏手柑

 ちょっと失敬して…は確かにできなさそう。枝が道にとびだしていたもので、美味しかった記憶がない。

  雁の声みづから夜具を敷く宿に

 連衆で雁の沼を訪れたのであろう、併せて十句が並ぶ。街で宿をとるような無粋なことはせず、雁の声を彼方に床へ。雁の気持ちに少し近づいた著者であった。
 清水哲男氏は帯に、万の人間の一人として万の鳥の一羽を詠む。等身大の人生から、ユーモアの歩幅とペーソスの歩速で抜け出してはまた、岩淵喜代子は地上の船に還ってくる、と記している。

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