2010年刊 ふらんす堂
句集と俳論の二冊が一つの箱におさまり、真摯な姿勢を見せた作品。
菖蒲湯に鰐の眼をして沈みゐる
題名はこの句から取られたようだ。自画像なのか、他の人なのか。水面すれすれに置かれた人の眼を鰐と喩えることで、一句は存在感をおおきくしているだろう。
俳人協会系の「未来図」と現代俳句協会系の「歯車」の振幅を生かした句作りが出来る力量を持っているように思う。
牙のごと氷柱育ててをんな老ゆ
滅ぶこと水にもありぬ蓮の骨
梟が伏字のやうな声を出す
冬の日がひよこのやうに手のひらに
去年今年兎のやうな耳垂れて
「ごとく」「やうな」の句が目立つのは、表現への意識の強さかもしれない。