文化の日のこと

一人暮らしをしている弟の誕生日にかこつけて、夕食は外で食べることになった。誕生日と言っても60歳を過ぎた弟と、その兄である弟夫婦と我々夫婦という老人グループの食事会だ。

川越街道は上りも下りも渋滞していた。文化の日の今日は最後の紅葉見物の時期である。丁度帰り組みの車に巻き込まれてしまったようだ。30キロほど離れている富士見野までに随分時間がかかってしまった。

「朝は7時に目覚ましを掛けとくんだ」
とひとり暮らしの弟が言う。
「どうして、目覚ましなんか掛けんの」
「いーじゃないか、きちんとしたほうが」

と上の弟がホローする。
寝たいときに寝て、起きたいときに起きる私が目ざましを掛けるのは早朝に出かける用事があるときだけである。だから、何の用事もない定年の男が目ざましを掛けて、規則正しく生活を律する生き方はなんとなく理解し難い。

予約した時間を大幅に遅れて食事のテーブルを囲んでいたら、どこかの席を囲んでハッピバースデイの歌が湧いた。他にも今日が誕生日の人がいたんだ。「ひょっとして申告すれば、あんなふうにボーイさんが囲んで歌ってくれたんじゃない」とは言ったが、そこは老人意識が頭を占めていて、名乗るほどのことではないと言うことになった。

帰り道は誕生日だった弟のマンションに寄った。まだ住み始めたばかりのマンションなので珍しさもあって、みんなでぞろぞろ8階の部屋まで立ち寄った。

目ざましを掛けて規則正しい生活をする割には汚い台所だ。家事などやったことのない上の弟が「おい、少しシンクを磨いたほうがいいぜ」というのも可笑しい。
「うん」と弟も素直にうなずている。

一人だから、寝室、食事、絵を描く部屋が全部別々にあるので部屋はそこそこ整頓されていた。窓からの眺めは8階のこの建物より高いところな無いらしくて、灯の街が半円形に見渡せた。どこかの海辺のホテルで海の半円形を見たのを思い出した。

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