物語を詠む

「ににん」41号は10周年特集号。今回は「物語を詠む」特集となる。こうした企画は賛否両論がある。要するに写生を基本とする俳句に反するということだろう。しかし、われわれは同人誌である。結社は研鑽が優先するが、同人誌は試みを優先させたい。

「物語を詠む」は自分で選んだ小説の舞台を実際に、あるいは机上で彷徨しながらの作句である。その小説の空気を呼び込みながら、自分の想像力を増幅させることになる。実際には、その小説に描かれた土地を歩くことが多い。旅をするときに、その土地を舞台にした小説を先に見つけておくこともある。これは案外と、旅も俳句も面白くなって、相乗効果を生む。

庄野頼子の「タイムスリップ・コンビナート」は勿論実際の舞台の鶴見線の海芝浦駅までの小さな旅だ。黒井千次の「たまらん坂」は国分寺近くにあって、今も坂の由来が書かれた案内板がある。だが、そうした土地を辿れない小説もたくさんある。その時は、その小説の舞台になりそうなところを探して歩く、というのも面白い。たとえば高橋たか子の「ロンリー・ウーマン」は渡良瀬遊水地の葦焼の風景を重ねた。

なぜ小説なのか、といえば旅と重ねることの楽しさだ。しかし、それだけではない。現在「ににん」に碧梧桐を書いている正津勉氏が中心になった読書会が10年になる。高田馬場の地域センター内で行われているので、興味のある方は覗きに来るのも歓迎する。

一番新しい読書は泉鏡花の『天守物語』である。この会で書いてある中の理解出来ない部分を誰かが解読して納得することが多々ある。今回は討手に追われた図書乃介と夫人が「切腹はいけません。ああ是非もない。それでは私が御介錯、舌を噛切ってあげましょう」という箇所で、舌を噛み切って、という情景を想像できなかったが、中の一人が抱擁の場面なのだという。それも男の舌が夫人の口の中なのだと言う意見で納得したものは多かった。

とにかく小説は面白い。さらにその面白さを倍増してくれるのがこの読書会である。

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