中西夕紀第三句集『朝涼』2011年 角川書店

鮎の国行く先々を雨打ちて
佃煮の包み平たし都鳥
遠き人鏡に映り日短か
蟇無々といふ顔していたり
寄りかかる何もなけれど夏座敷
浮いてゐる紙が値札ぞ海鼠桶
伊勢海老の二藍の色誉めにけり
熊の胆を切り分けてゐる雪祭
雪見舟蘆のほとりを通りけり
春燈のわづかを使ふ画廊かな
胸元に押し付けてくる林檎かな
掌にのこる畳の跡も雁の頃

写生をひとたび自分の内側で咀嚼して表現に置き換える、ということの殊に意識を寄せている作家ではないかと思う。だからと言って誇張した表現で無理をしていない。それが読み手にはありがたい。一句目の鮎の獲れる時期、その里が雨の中だったという風景。それを行く先々を雨が打つていたという切り取り方にするのが作者流ということだ。

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