2013年4月12日 のアーカイブ

安西篤句集『秋の道(あきのタオ)』  2013年  角川書店

2013年4月12日 金曜日

   春霞猫がひきずる寝巻紐

 春霞からひきだされ猫の光景。紐はまさか猫自らの寝巻の紐ではあるまい。飼い主の着替えたばかりの寝巻のそれである。そうしてまた、視線は春霞へ戻るのである。ここでは、猫と春霞が楔を打たれたようにゆるがない。

  蟇轢かれやがていつもの土となる
  打水やちょっとそこまで逝きし人

年齢からくる諦念のようなものが、現れる

  憲法九条座敷に椿象いる気配
  陽炎や鳥獣戯画の端に人
  春の砂丘男の影が折れている
  陰干しの人間がいる白夜かな

作者の中枢をなす作品ではないかと思う。重厚な油絵的な構図が
印象にのこる。

中戸川朝人句集『巨樹巡礼』  2013年 角川書店

2013年4月12日 金曜日

ーー巨樹の前に立つと、巨樹の方からの発信が実感出来て、ときに震えるような感動を覚えることがある。--という作者のことばが帯にある。

手をあてし松をはじめの巨樹めぐり

たしかに、あの巨木の幹には不思議な懐かしさを感じるものである。この句集は遺句集になってしまっているが、作者が用意していた句集なので、頁を繰るたびにさまざまな巨樹が立ちはだかる。

彩曳いて新幹線過ぐ椨の花
柏槇の風に発ちゆきヨットの帆
一行を容れ大杉の木下闇

どこをひらいても気持ちのいい巨樹に出合えて、作者中戸川朝人の意欲的な句集への姿勢が感じられる。

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