春霞猫がひきずる寝巻紐
春霞からひきだされ猫の光景。紐はまさか猫自らの寝巻の紐ではあるまい。飼い主の着替えたばかりの寝巻のそれである。そうしてまた、視線は春霞へ戻るのである。ここでは、猫と春霞が楔を打たれたようにゆるがない。
蟇轢かれやがていつもの土となる
打水やちょっとそこまで逝きし人
年齢からくる諦念のようなものが、現れる
憲法九条座敷に椿象いる気配
陽炎や鳥獣戯画の端に人
春の砂丘男の影が折れている
陰干しの人間がいる白夜かな
作者の中枢をなす作品ではないかと思う。重厚な油絵的な構図が
印象にのこる。