安西篤句集『秋の道(あきのタオ)』  2013年  角川書店

   春霞猫がひきずる寝巻紐

 春霞からひきだされ猫の光景。紐はまさか猫自らの寝巻の紐ではあるまい。飼い主の着替えたばかりの寝巻のそれである。そうしてまた、視線は春霞へ戻るのである。ここでは、猫と春霞が楔を打たれたようにゆるがない。

  蟇轢かれやがていつもの土となる
  打水やちょっとそこまで逝きし人

年齢からくる諦念のようなものが、現れる

  憲法九条座敷に椿象いる気配
  陽炎や鳥獣戯画の端に人
  春の砂丘男の影が折れている
  陰干しの人間がいる白夜かな

作者の中枢をなす作品ではないかと思う。重厚な油絵的な構図が
印象にのこる。

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