俳句雑誌評 筆者 三好万美
『ににん』十一年一月一日発行
代表 岩淵喜代子
創刊十周年記念号であり、特集は、「物語を詠む」である。
巻末の「ににん十年のあゆみ」によると、この「物語を詠む」の特集は、二〇〇四年から続いている独自の特集のようだ。
十周年を記念しての寄稿には、「『ににん』は俳句にとどまらず、詩や短歌にも広い見識を持っているのが評論やエッセイから伝わる。(中西夕紀)」とある。
『ににん』の年表を見ていると、田中庸介氏の「わたしの茂吉ノート」を読んでみたいと思った。
いよいよ特集「物語を詠む」である。十周年ということで、岸本尚毅、齋藤愼爾、筑紫磐井、八木忠栄が物語を詠んで俳句を寄稿している。
会員の方々はどんな小説を選んでいるのかと、わくわくして目次を詠む。古事記、木曽義仲物語から乙一まで、選ばれた小説は幅広く、それぞれの書き手の趣味と感性が共鳴し合っている。
「物語を詠む」より
佐藤さとるの『誰も知らない小さな国』を詠む
ポケットからこぼれたやうな菫咲く 荒木孝介
人宰治の『千代女』を詠む
お使ひのタバコを五つ桜草 石井 圭子
向田邦子の『きんぎょの夢』を詠む
父の忌のお経浪々水羊葵
らやぶ台を囲みて正座涼しかり 及川希子
『星の王子様』を詠む
水のんでみるくのやうな春の朝
あたたかく夜明けの星となりにけり 川村研治
乙一の『夏と花火と私の死体』を詠む
扇風機がくんと首の折れてゐる 武井仲子
深沢七郎の『桐山節考』を詠む
空っぽの背板の雪を払ひけり 尾崎じゅん木
ににん集・・・「月」より
月光の届かぬ部屋に眠るなり 岩淵喜代子
親指と向き合ふ小指月の笛 望月遥
産み月の髪重かりし養花天 中村善枝
俳句作品の後に月にちなんだエッセイ(「月下独酌」というタイトルが詩的)があり、『ににん』の俳人たちの日常と感性の源をうかがい知ることができた。
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『ににん』十周年記念号は『俳句研究』夏号にも、取り上げられていますのでお手にとってみてください。岩淵