こんな句に出会うと、カステラとベンチの取り合わせでいろいろなバリエーションが作りたくなる。カステラの端っこはざらめ砂糖が歯にあたって、おまけに出会ったような気分になるものである。
その気分が、冬日のベンチの端を提示されたことで、さらに倍増する。多分、いろいろなカステラとベンチという条件だけで俳句を作っても、なかなかこの句のような美味しいカステラにならないような気がする。
(坪内稔典句集『ヤツトオレ』 2015年 角川書店より)。他に(子午線の町には蛸が立つてゐる)・( ウミウシとダリア私の叔父さんは)・( 友達のいない晩夏の貨物船)・(弟はすぐぶらさがる夏夕べ)・( ポケットに花屑オレは七十歳)まど。