田中水桜第七句集『九十九里』 2010年9月 梅里書店刊
美登利らは影ふみあそび柳垂る
白南風や出世階段空に消ゆ
白無垢の神の座に入り黒揚羽
海坂の天に貼り付く松の花
石鹸玉追つてゆきしがほらけたる
大正十年生まれ。「さいかち」の前主宰の自在な時空を得た作品の集積。
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桜井ゆか第二句集 2010年9月 ふらんす堂刊
空っぽの檻の残雪明りかな
草毟りこの世の端にいるような
風鈴を吊るせば風のあらわるる
紫陽花を剪りし鋏の横たわり
帰省子の畳の上の手足かな
奥行きのある風景を自在な軽やかさで楽しませる句集。
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山口素基第二句集 2010年9月 文学の森刊
冬に入る十和田湖に手を触れてみる
どんぐりのころがつてゐる岩疊
見てゐても見てゐなくても桜散る
犬が寝しここが一番涼しきと
さつきから誰もしやべらぬ大夕焼け
「造化にしたがう」という軸足を保つ姿勢の感じられる一集。
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奈良文夫第五句集 2010年7月 本阿弥書店刊
百人のひとりを見詰め運動会
その先に海が光りぬ冬木立
洗顔の鏡中三月十日の旭
飛ばされし冬帽追へば津軽の野
二つ置く仏頂面の日向ぼこ
堅固に俳句の形を踏襲しながらの人生詠
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