角のなき鹿も角あるごとくゆく  岩淵喜代子句集「硝子の仲間

「いには」10月号現代俳句散歩より
評者 岡崎 寅雄

鹿の歩みは淑やかである。野生の鹿は知らないが神苑等にいる鹿は馬のように首を振ることも無いし、身体の上下も柔らかい。しずしずといつの間にか傍に来ている。その行き来の中に角のない牝鹿が立派な角を持つ雄鹿と同じような雰囲気で歩いている。その光景は一幅の絵のようで読み手の目前に彷彿たるものがある。

それを自身の持つ詩魂の中に取り込んだ素晴らしい写生句である。作者はこの句を「生きとし生けるものの在り様を真っ直ぐに切り取ることの出来た一句として大事にしたいと思った」「俳句」2015年3月号〈50俳人の代表句ととコメントしている。正に写生の醍醐味であり、共感することしきりである。

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