掲出句は(影一本)という措辞がすべての中心を成している。電柱などの存在を普段はあまり意識はしていないが、その影には目を止めやすい。目に停めるほど影は濃く横たわっていたのだろう。ふと(花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月 原石鼎)が思い出された。そういえばこの作者森川光郎氏は鹿火屋に属している。
揺れることもなく立つ電柱は、その影もまた微塵のさゆらぎもなく地上に横たわっているのだろう。その光景が暑さの象徴となって、夏を増幅させてますます一本の電柱の影を濃くしていくのである。
耕すと阿武隈川を渡りけり
かじりたるトマトの蔕は海に放る
高き木に高く雲とび七月行く
おぶさつてすすきぶつぶつ芒にいふ
夕芒ならびてどれも影持たず
森川光郎句集『遊水地』 2015年