遠山陽子第五句集『弦響』  2014年6月   角川学芸出版

地吹雪のかなたの桜吹雪かな
なにもせぬ耳たぶ二つ薄原
鮟鱇か虎魚か父を忘れをり
福袋白鳥の子が出てきたる
少し転げ卵の中は春の海
蛇の衣湖すこし流れをり
滝見上げをり夫婦でもなさそうな
立ち上がるものに馬の子みちのくは
曳かれくる鯨笑つて楽器となる     敏雄
夏の夜のグランドピアノ鯨となる    陽子

太陽や目にいつぱいの暗い事態(チエルノブイリ)  敏雄
収束不能(フクシマ)を敏雄は知らず敏雄の忌      陽子

自選十句には(老人になるまで育ち初あられ)(生枯れの我枯れの足の中)(よき十年なりき仰げば松ノ花)など、人生の凝視の姿勢が感じられる。大冊の評伝『三橋敏雄』を書き上げた達成感とその月日の充実感が一集に漲っている。そうした中で、師、三橋敏雄のへのオマージュとしての反歌のような試みにも惹かれた。

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