句集『秋物語』はその題名が想像させるように、意識して物語に意識を持ちながら編んだ句集である。
それは、さらに目次を開いて感じるのだ。
忘れられない3月11日
沖縄慰霊の日
続・嗚呼回天
冬の鎌倉
動物園
初みくじ
親鸞聖人七五〇回大遠忌
お星さま
泥鰌つこ
霧の箱根
秋物語
弔いの酒(自由律)
こう並べると、小説短編集、あるいはエッセイ集の目次のようである。
セシウムなんて知らなかつた蕗の薹
婆さまのシャツに横文字沖縄忌
蝉の木の暗がり無数の淋しい目
着膨れて虎の視線の中にゐる
往生は風となりゆく草の絮
本の制作には、俳句として囲んでしまいすぎることで一般読者に伝わらないのではという意識をもちながらの本の制作でもあったようだ。
たしかに現在、句集の読者は俳人のみと言ってもいい。
たしかにこの柵が取り払われることがあるなら、俳句はもっと普遍的に、もっと読者が増えるのではないかと思う。