好感のを持つ句集というのは、この『累日』のような作品集を指すのだろう。石寒太氏は――普通のさりげない内容が、詠み込まれてみて、はじめて、なるほどこんなことをこんな風に詠んだ人はいなかったな、と気づかされる―ーと言っている。
たとえば
やはらかきところは濡れてかたつむり
といった句はそう言われてはじめて俳句の詠み方を知ったような気になる。
一集はそうした句の連続である。もっとも、この句集は何回となく挑戦した俳句研究の応募の集積でもあるわけだから纏めるには膨大な捨てる句があったと思うのである。
サングラス砂を払ひて砂に置く
籠枕きしきし鳴いて定まれり
熱きもの持つやうな指祭笛
遠泳の水平線を抱かんとす
父母は金魚の部屋に座りゐし
睡るとき外す眼鏡や螽斯
全員が十七歳や夏講座
ひとつづつ影を増やして雛飾る
青空の雫集めて氷柱かな