『暁』2013年1月号  主宰・室生幸太郎

▼現代俳句鑑賞▲   筆者 原尚子
  
人が人へ闇を作りて螢待つ      岩淵喜代子
              (俳句九月号「半夏生」より)

 闇に螢の飛んでいる、非常に美しくロマンチックで幻想的な情景であるが、この句はそんな様子ではない。私は考えて考えて、何となく作者の内面的な深い思考へたどりついたような気がする。人が人へと作る闇とは、人が人をいためたり、傷つけて作られてしまうことだと思う。人によって作られた闇が、かぼそい螢の光によって救われるというか、光明として人にやさしさを与える。それは傷つけた側にも、傷つけられた側にも同じことである。少し淋しいが人間と人間の関係の微妙な存在が感じられる。
 作者岩淵喜代子氏は第五句集『自雁』を上梓された。句集中の自選句に

  狼の闇の見えくる書庫の冷え
  十二使徒のあとに加はれ葱坊主

などがあり、言葉選びが感覚的で、知的な方だと想像できた。「半夏生」の十二句もていねいに的確に書かれた句が並んでおり、その姿勢に敬意を表したいと思った。

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