▼現代俳句鑑賞▲ 筆者 原尚子
人が人へ闇を作りて螢待つ 岩淵喜代子
(俳句九月号「半夏生」より)
闇に螢の飛んでいる、非常に美しくロマンチックで幻想的な情景であるが、この句はそんな様子ではない。私は考えて考えて、何となく作者の内面的な深い思考へたどりついたような気がする。人が人へと作る闇とは、人が人をいためたり、傷つけて作られてしまうことだと思う。人によって作られた闇が、かぼそい螢の光によって救われるというか、光明として人にやさしさを与える。それは傷つけた側にも、傷つけられた側にも同じことである。少し淋しいが人間と人間の関係の微妙な存在が感じられる。
作者岩淵喜代子氏は第五句集『自雁』を上梓された。句集中の自選句に
狼の闇の見えくる書庫の冷え
十二使徒のあとに加はれ葱坊主
などがあり、言葉選びが感覚的で、知的な方だと想像できた。「半夏生」の十二句もていねいに的確に書かれた句が並んでおり、その姿勢に敬意を表したいと思った。