『舞』2012年11月号  主宰・山西雅子

現代俳句月評 筆者 小川楓子

夏霞から歩み来てメニュー置く    岩淵喜代子 
               (「俳句」九月号)

 誰がどうして夏霞から歩いてきたのか、そしてなぜメニューを置いたのか、推理小説のプロローグのように謎めいている。高原のオープンカフェで、立ち込める夏霞の方向からウェイターが客にメニューを置きに来た、とまずはイメージする。だが、夏霞の効果によって、ウェイターの存在が曖昧になり、唐突に置かれたメニューのみ際やかになる。一句を何度も読み返すうちに、本来は、食事を決める選択技の記された小冊子であるメニューが、読者の前にふいに提示されることで、それが、未来から届いた手紙のようにも、メメント・モリ―必ず死ぬことを忘れるな―という警句にさえ感じられ、終ることのない物語が引き出される。

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